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イノベーションだけではブランドにならない

ブランド戦略論を考える(5)イノベーションと起源の忘却

田中洋
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
情報・テキスト
ブランドの根本には構想とイノベーションが存在する。しかし、中央大学大学院戦略経営研究科教授の田中洋氏は、イノベーションだけではブランドにはならず、そこには当初のイノベーションが忘れられるという「起源の忘却」プロセスが介在していると主張する。起源の忘却とは何なのか?(2018年1月27日開催中央大学ビジネススクール/ビジネス戦略論最終日講義「『ブランド戦略論』をどう読むか」より、全7話中第5話)
時間:12:08
収録日:2018/01/27
追加日:2018/08/08
≪全文≫

●イノベーションが起きると、生活のパターン、優先度が変わる


 ブランドの根本にあるのは、構想だけではありません。もう一つの源は「イノベーション」です。イノベーションとは日本語でいうと「革新」ですが、イノベーションの定義も多様です。ものすごく単純にいうと、新しくて良いことがイノベーションですが、それだけでは十分ではありません。

 私の考えでは、イノベーションが起きると、われわれの生活のパターンが変わります。さらに、何らかの生活の優先度も変わるでしょう。

 例えば、iPhoneのようなスマートフォンのことを考えてみてください。今では、多くの人にとってスマートフォンは生活の中で非常に大事な道具になっています。例えば、通勤の途中で駅の長いエスカレーターに乗っているとき、どんな短時間でもスマートフォンで調べ物をしたり、ゲームをしたり、SNSを見たりします。

 グーグルにいわせると、スマートフォンによって人びとはこうしたマイクロな行動を取るようになります。これはスマートフォンによってもたらされた、新しい生活のパターンです。また、生活の中でiPhone等のスマートフォンをより優先して考えるようになっています。こうしたスマートフォンは、まさにイノベーションの一例でしょう。


●包装革命がわれわれの消費活動の原点をつくり上げた


 少し歴史をさかのぼって考えてみると、イノベーションは必ずしもすごく昔からあったわけではなく、非常に近代的な現象です。近代的なきっかけの一つは、今から百数十年ぐらい前に起きた「包装革命」でした。

 包装革命とは、商品をパッケージ化して発売することが普及したということです。なぜこれが革命と呼ばれるのでしょうか。19世紀から20世紀の初めにかけて、例えば缶詰に代表されますが、物を包むだけではなく、物を保存し、それを遠くまで運び、あるいは遠くの人がそれを買うということが可能になります。

 それまでは地産地消の時代で、物は生産された地方でしか消費されませんでした。ところが、近代になって、作ったものを缶詰にして、遠くの街に運べるようになったのです。商品が全国に発送されるようになれば、今度は全国に向けて商品を広告しようということになります。当時、すでに新聞などのメディアが発達していましたから、例えば新聞広告というものもできてくるわけです。そうなれば、当然、ブランドの広告というものも出現し始めます。このように、包装革命がわれわれの消費活動の原点をつくり上げたといえるのです。


●ミツカンは酢を瓶詰めにして発送した


 例えば、バドワイザーというビールがあります。ビールを瓶詰めにして、遠くまで運んで売るということを最初に始めたのは、まさにバドワイザーでした。日本では、ミツカンという酢の会社が同じことをしています。

 戦後、人工的に合成して造られた、いわば偽の酢が、天然醸造の酢を駆逐するという事態が起きました。ミツカンは天然醸造の酢を作っていたのですが、樽で出荷するとその中に偽物の酢を詰められて、転売されてしまいます。そこでミツカンは天然醸造の酢を守るため、樽ではなく、酢を瓶詰めにして発送することにしたのです。これがミツカンというブランドを、酢の中でナンバーワンにした出来事でした。

 ゴディバというチョコレート会社も同様です。発祥の地はベルギーですが、その中で頭角を現し、早い時期から国際化した企業です。きっかけの一つは、きれいに包んだチョコレートをバロタンという金色の箱に入れ、それを包装してギフト用として売るという戦略でした。バロタンという包装によって今のゴディバがあるといっても、過言ではないでしょう。


●ブランドになるには、起源の忘却が必要だ


 このように、今から百数十年前に包装革命の時代があり、その後さらに技術とその組み合わせによるイノベーションが盛んになってきました。現代はまさにそうした時代です。古典的な成功例としては、ゼロックス社が開発した乾式のコピーです。あるいは、われわれが使っているパソコンは基本的にはIBM型のPCですが、これはマイクロソフトやインテルの技術を組み合わせて作られています(IBM自体は、パソコンを作るのをやめてしまいましたが)。

 こうして、イノベーションが起き、そこからブランドが出てくるというのが、今の支配的な形になっています。ただし、イノベーションが起きれば、そのままそれがブランドになるということではありません。ブランドになるには、起源の忘却という過程が必要なのです。

 起源の忘却とは、イノベーションが起きた後、そのイノベーションを人々がいったん忘れてしまうという意味です。例えば、マクドナルドにしてもスターバックスにしても、実は過去にさまざまなイノベーションを起こしています。しかし、われわれはそ...
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