10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

1人目になろうとする人が日本にはすごく少ない

真山仁の小説論(3)小説家の役割

真山仁
小説家
情報・テキスト
「想像力」は小説や映画を楽しむためだけではなく、将来世代の日本社会のためにも求められている。そうした中で小説家が担うべき役割とはいかなるものなのか。小説家・真山仁氏が自身の取り組みを踏まえて論じる。(全3話中第3話)
時間:07:58
収録日:2018/04/10
追加日:2018/07/19
≪全文≫

●「想像力」は未来世代のために絶対必要である


真山 私がよく「想像力がない」と言うのは、小説や映画を楽しむことをすすめたいからではありません。今の社会が3年後、5年後、10年後にどうなっているかという想像力が、日本人のため、子どものため、孫のために絶対必要だからです。にもかかわらず、「そんな先の怖いことは考えられない」と責任世代が言った瞬間に、その民族は多分滅びるでしょう。他の生き物なら滅んでいます。

 できることなら、借金や負の遺産、また間違ったルールを少しでも良くする必要があります。今年は無理でも、3年、5年、10年かけても良いので、変わっていく方法や仕組みを想像し、つくろうとしなければいけません。今がそうした努力をするラストチャンスだと思います。

―― なるほど。それをやっていかないとご破算になり、またゼロからつくっていかなければならなくなるということですね。

真山 完全にゼロにはなりません。日本に生きている人や、日本の街の全ての風景が消えるわけがないからです。これだけいろいろなものが密集してしまった場所をゼロにすることはできないのです。戦争はその可能性がありますが、次に戦争が起こったら、そもそも人は生きていないでしょう。つまり、すでにあるものの中でどうやって、ゼロにならないような改革をするかということが重要なのですが、これは昭和20年ごろと比べて桁違いに難しいと思います。でも、やらないといけない。

―― 『オペレーションZ』の中で、北海道の炭鉱町が壊れていく様子を書かれていましたが、そうしたものを変えていくことも、桁違いに難しいということでしょうか。

真山 本当にあの小説のように、それこそ夕張に首都を持っていくぐらいの大胆さがないと駄目でしょう。何もない所にしか新しい街はつくれません。


●社会を変えていくのは1人の行動力から


―― 政策は大臣が変わるたびに書かれるわけですが、重要なのは政策の通し方で、それに長けた人が出てこない限り、情勢は動かないように思いますが、いかがでしょうか。

真山 そうですね。よく「1人では社会を変えられない」と言って皆諦めますが、実際には1人でしか変えられないと思います。突破力があり、行動力のある人が中央突破を図り、そこにいろいろな人が、応援しに集まってくるという状況が生まれないと、そうした閉塞感は突破できません。

 だから、おかしいと思っている人がたとえ1人であっても立ち上がり、倒れてもまた他の人たちが次々立ち上がっていくようなことをやっていかなければなりません。ですが、必ずしも報われるわけではなく、何のメリットがあるのかと聞かれても、はっきり返答できませんが、もしかしたら、あなたのおかげで多くの未来の日本人が救われるかもしれないという、それだけです。


●官僚は命懸けで取り組む政治家の胆力に答えようとする


―― 小説執筆のための財務省若手官僚たちとの勉強会で、そのときの総理が2年しか続かないのなら「死んだふり」するというお話が出たそうですが、かなり本質をついているのではないでしょうか。

真山 その通りだと思います。忖度するかどうかは、そうした点で決まりますよね。逆に10年も政権が続いた場合には、いつやるかが重要になっていきます。霞が関の官僚の幹部が総理とやりとりする際に、「これは真剣だな」と思ったことが何回かあると聞きます。彼らに「この問題に関して命懸けでやっているんだ」ということを伝えられるかどうかが、政治家の胆力なのでしょう。そうであれば、それに応えるしかない、というのが官僚の意地、矜持であるといえます。

 ただ、今は両者にそれがないということでしょう。例えば、「3選したい」「オリンピックでみんなに『ハロー』と言いたい」というようなレベルのものは矜持ではありません。「それはあなたの願望で、日本人の願望ではない」という話になります。


●1人目になろうとする人が日本にはすごく少ない


真山 ある政治家と以前テレビ番組で対談をしたのですが、その時に次のようなことを言いました。「あなたは、何のために政治家になったのか、今みんなの前で言えますか。国民のために、国民が嫌がることもやるために、政治家になったんじゃないですか。そうであれば、自分の政治生命を失うかもしれないとしても、それでこの国が良くなるのであれば、やればいいじゃないですか」と。

 動揺されていましたが、しばらくして「ずっとそう思ってますよ」と答えました。「じゃあ、何でやらないのですか」とまた問うと、「世の中、そう簡単じゃない」と答えるのです。

 多分その人だけでやり遂げることはできないだろうけれど、その人が行動にうつせば、誰かが次に続こうとして出てくるでしょう。普通、2人目の方が楽なのです。3人目はもっと楽で、4人目はさ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。