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知能の成立過程は偶然による自然淘汰の結果

知能と進化(8)人工知能研究のための進化生物学

情報・テキスト
総合研究大学院大学長・長谷川眞理子氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授・松尾豊氏の対談シリーズ最終話は、今後の人工知能研究のために何を読んだらいいか、長谷川氏の勧めるものから話が始まった。人工知能研究と進化生物学が交わる点は、最終的にどこに求められるだろうか。(全8話中第8話)
時間:08:36
収録日:2018/04/09
追加日:2018/07/29
≪全文≫

●「レレバンス理論」は認知の在り方を考える際に有効


松尾 もっと「こういうものを読んだ方が良い」というものがありましたら教えてください。

長谷川 私が好きなのは、ダン・スペルベル氏(フランスの人類学者)です。ダン・スペルベル氏は心や言葉に関する「レレバンス理論(関連性理論)」というものについて書いていて、先ほどの認知についての話と非常に似たことを言っています。

 人があるものを見たり、ある言葉を聞いたりしたとき、それに対していろいろな思いを想起するわけですが、それを彼は「プライベートリプレゼンテーション(private representation)」と呼んでいます。

 プライベートリプレゼンテーションはいろいろあるのですが、それを言葉としてまた伝えるときには、「パブリックリプレゼンテーション(public representation)」となり、それを受け取って聞いた人は、また、それによってさらに別のプライベートリプレゼンテーションをたくさん想起します。そして、また返すときは、パブリックリプレゼンテーションです。ですから、プライベートリプレゼンテーションがどうなっているかは知りようがなく、パブリックな言葉や表情など、さまざまな手段を通じて、パブリックリプレゼンテーションとして伝えられると思っていることを人は言っているだけなのだ、ということです。また、そのプライベートリプレゼンテーションが他のことと結び付くことによって、全く違う発想が出てきたり、イノベーションが出てきたりします。こうした、パブリックとプライベートがどんどん広がっていく過程のことが書かれてあるのです。私はこれがすごく納得のいく話なので、面白く読みました。

松尾 分かりました、読んでみます。ありがとうございます。


●生物の在り方を予測する素朴物理学と素朴心理学と素朴生物学


長谷川 ところで、素朴物理学というものがあるのですが、それには素朴心理学と素朴生物学も備わっており、それについては、例えば何が食べられるものか、何が危険なものか、こういう生き物はどういう動きをするのか、ということが生得的といいますか、キャナライズ(canalize)されているということです。松尾さんは「GAVAGAI」をご存じですか?

松尾 「GAVAGAI」ですか。

長谷川 デイビッド プリマック(アメリカの心理学者)という人がいるのですが、プリマック氏が1970年代に「心の理論(Theory of Mind)」を最初に考えた時、言語の不思議について書いたのが『GAVAGAI』です。

 原始人の世の中の話ですが、川のほとりでウサギがばっと横切ったところ、それをある原始人が「GAVAGAI」と言ったそうです。それを聞いていた他の原始人がなぜ「GAVAGAI」をウサギが走っていったこと丸ごとだと分かるのか、という問題です。理由としては、動きかもしれないし、耳だけかもしれないし、といったように、さまざまな可能性が考えられます。その中でなぜ走っていったウサギを見て「GAVAGAI」と言ったことに対して、それはウサギのことを意味すると皆分かるのか、ということをもとに、言語の不思議さを書いているのです。それが『GAVAGAI』という本です。

松尾 面白いですね。

長谷川 それも、素朴物理学や素朴生物学のキャナライゼーション(canalization)が備わっているからです。それは例えば、動きや軌跡に着目するとか、線で囲まれたものは1つの物体としてその部分部分を分解しないといった能力が備わっているからですよね。


松尾 そうですね。


●知能の成立過程は、偶然による自然淘汰の結果である


長谷川 そういう意味で、思考として成り立つピースは全て自然淘汰の結果であり、進化的にはさまざまなピースが備わった上でやっていることなのですよね。

松尾 多分それは、色かもしれないですし、大きさかもしれないですし、他のいろいろなものかもしれません。ですが、まずはオブジェクトをどう把握するかということなのですね。

長谷川 閉じた1つのものが「もの」であり、その動きの軌跡に着目して、色は後という感じでしょうか。

松尾 そうですね。それが言葉とひもづいて、後に色などへの言及が出てくるとき、他に残ったものの中から「これ、色かも」というような話になるということで、そうした優先順位が備わっているわけですね。この辺りは、これまでのお話の中で出た共同注意なども含めて、最初からすごく仕組まれている感じがします。

長谷川 なぜそれが選ばれてきたのかも、長い進化の歴史の中で、偶然であることと、その方が他のオルタナティヴに比べれば良かったということの両方が働いているからでしょう。ということで、知能の基板ピースというものは本当にごった混ぜなのだと、私は思います。


●情報の送り手と受け手による共進化が認知の在り方を作っていく


松尾 ...
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