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敵将・曹操からさえも高く評価された関羽の「義」とは

関羽の「義」と現代中国の関係(1)武と義

渡邉義浩
早稲田大学常任理事・文学学術院教授
概要・テキスト
関羽
1800年も前のことなのに、いまだに「誰がいちばん?」とランキングの対象になる三国志時代の英雄たち。日本では、吉川英治の『三国志』の影響で、曹操と諸葛亮に肩入れする人が多い。しかし、本国の中国では、曹操は「奸絶」、諸葛亮は「智絶」、関羽は「義絶」と呼ばれる。ここでは「義」の極みである関羽が信仰対象とされていく経緯を、早稲田大学文学学術院教授の渡邉義浩氏に解説いただく。(全3話中第1話)
時間:16:24
収録日:2018/03/15
追加日:2018/07/30
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≪全文≫

●「一緒に飲みたい」張飛、「神様になった」関羽


 こんにちは。早稲田大学の渡邉と申します。今日は、関羽 (かんう)という三国志時代の英雄の話をさせていただこうと思います。中国の三国志時代は3世紀のことですが、『三国志演義』という文学にまとめられた物語は、中国人なら誰もが知っています。劉備 (りゅうび)という主人公がいて、彼を支えていく二人の武将が関羽と張飛 (ちょうひ)です。

 張飛は民衆のヒーローとしてとても愛された人で、「一緒に酒を飲みたい人」のナンバーワンになったりします。それに対して、関羽は信仰の対象になっていますが、ただの武人ではありません。武人が「武」の神様としてまつられるのは分かりやすいですが、彼は商売の神様としてまつられました。例えば、日本でも中華街に「関帝廟」という形で置かれています。それは、どうしてなのかをお話しさせていただこうと思います。


●武力ナンバーワンではなかった関羽


 まず、関羽の武力ということですが、『三国志』の中で個人として戦ったときに一番強いのは誰かというと、圧倒的に呂布 (りょふ)です。関羽ではありません。「人中に呂布有り、馬中に赤兔 (せきと)有り」という軍中語、当時のことわざめいたものが『三国志』の中にあるように、個人の武力は呂布。では、軍隊を率いて戦ったときに圧倒的に強いのは誰かというと、曹操(そうそう)です。

 そういうわけで、関羽は最強ではありません。しかし、そこそこの武力はあります。例えば、『三国志』には袁紹(えんしょう)の部下であった顔良(がんりょう)を斬った「白馬の戦い」などが記されているからです。しかし、それでもナンバーワンではありません。では、どうして、彼が義として、神様として信仰されていくのかというと、その武力が義とともにあったことが尊重されているから、という話になります。

 顔良との戦いについて、スライドに『三国志』の文章を出していますが、数えていただくとお分かりのように非常な短さです。「関羽が顔良の傘を遠くから望み見て、顔良と多くの人の間で馬に鞭を入れ、刺して、その首を斬って帰った」という程度のことしか書いてありません。


●『三国志演義』に書かれた華麗なる「白馬の戦い」


 『三国志演義』では、より多くの...
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