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日本は技術革新に基づく働き方改革も行うべき

今後の技術革新と企業経営(5)技術革新を活用した働き方

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
働き方改革の本当のポイントは、技術革新を有効活用して働き方を変えることにある。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏はそう説明する。過重労働を減らすよう長時間労働への規制は必要だが、技術を導入して生産性を向上させ充実度の高い働き方を実現することも重要である。(2018年4月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「今後の技術革新と企業経営」より、全8話中第5話)
≪全文≫

●働き方改革の本当のポイントは、技術革新の有効活用にある


 今回は、働き方改革の話をします。働き方改革は、現在よく出てくる話であり、経営においても重要なポイントになっています。本当のポイントは、新しい技術革新を有効に活用して、生産性を向上させたり、充実した働き方ができるようにしたりする、こういった点にあります。そのためには、今までと同じような組織の仕組みでは駄目で、組織の仕組みを大胆に変えていくことが必要になります。

 そのような意味では、ポジティブに考えるならば、技術革新は働き方にすごく大きな広がりとチャンスをもたらすはずです。しかし残念ながら、技術革新を働き方の変化へとうまくつなげられていないのが、現在の実情です。


●現在の技術革新は、時間と空間に縛られない働き方を可能にする


 現在の技術革新がどのような働き方を可能にしているかといえば、それは、時間と空間に縛られない働き方です。ところが、そういった働き方が技術的には可能になっていても、企業の文化や規則がその導入を阻んでいます。これは、非常にもったいないことだと思います。

 今の技術革新で働き方に何が起こっているかを説明します。ここで、例えば昭和の働き方がどういうものだったかを考えてみます。そうすると、会議室に行くとキャビネットがいっぱいあって、キャビネットにコピーした書類がきれいに整理されています。このように書類をきれいに整理してファイルしておくことが、事務の人の作業の中で大事なものでした。そして、ファイルされた書類を机に広げて、みんなで顔を突き合わせながら会議をする。これが昭和のスタイルの会議であり、昭和のビジネスでした。

 ところが、今はそういった制約はほとんど何もありません。ファイルキャビネットは必要なく、クラウドにファイルを上げておけばいい。そして、各自で都合のいいときにクラウドから書類を取り出して見ればいい。顔を突き合わせて会議をする必要もなく、SNSや電子メールなどを使えば、時間がずれていても会議はできます。もし時間を合わせる必要があれば、インターネット会議やテレビ会議をすれば、それで十分済んでしまいます。

 こうなると、場所はどこでもいいし、時間がずれていても、実はほとんどの仕事に支障はありません。そういう意味では、子育てのため家にいても、あるいは少し体を壊して在宅の状態になっていても、あるいは海外のビーチにいても、仕事をすることはできます。臨場感はちょっと落ちますが、それでも仕事自体はできるのです。

 私はアメリカのカリフォルニアで、数年前に客員として授業を行っていました。その時、ゼミ生の募集をしなければいけなくなり、それをスカイプを使って行いました。スカイプで学生と一人一人面接して、会議もしました。教室にいる必要は全くなく、これでもできてしまったのです。

 もちろん、これで全てのことができるわけではありません。スカイプの会議では、途中で回線が悪くなってしまい、画面が表示されなくなりました。私の顔が学生の側に映らなくなってしまい、学生は真っ暗な画面に面接の志望理由をしゃべることになりました。「この時はすごくやりにくかった」と学生は言っていました。

 ただ、このように技術革新は働き方の自由度を格段に高めています。しかし残念ながら、現状ではなかなかそういった技術を導入できていません。したがって、働き方改革の本質は実は、こういった新しい技術の導入にあるのです。そうすることによって、例えば子育てや介護をしている人、あるいは少し足を悪くしたような高齢者の方も、働けるようになります。


●人材不足の時代になり、人材の奪い合いが起こる


 もう一つ、これから少子化が進んで人口が減少していくと、人手不足の時代になっていきます。しかし、マクロ的には実は人余りの時代でもあります。よって、人手不足は実際には、とても必要な人材がものすごく足りなくなることを意味します。

 ここで、AIなどにより自動化が進んでいくと、低スキルの人たちがかなり余るという、アンバランスな話になります。いずれにしても、ハイスキルな人材の不足はこれからかなり深刻になります。そうなると、特に規模の小さい会社では、ハイスキル人材をどれだけ獲得できるかがこれからの鍵になります。しかし、これは世界中の会社にいえることで、人材の奪い合いが起こります。


●技術革新によって、世界中をオフィスにすることが可能に


 人材の奪い合いが起こると結果的にどうなるかというと、おそらく自社でハイスキル人材を完全に抱え込むことが難しい時代になっていきます。こういった人たちは、いくつかの会社の仕事を請け負う形になったり、あるいはいくつかの会社に所属したりという状況になると思います。

 実際今でも、アメリ...
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