●東京都と宮城県石巻市、そしてシンガポールでも在宅医療を展開
医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐と申します。簡単に自己紹介をしますと、私は1996年に医学部を卒業した後、循環器内科医として東大病院や三井記念病院でカテーテルの治療を行ってきました。その後、宮内庁に赴任し、侍医を約2年勤めた後、マッキンゼーというコンサルティング会社で2年ほどコンサルタントをしておりました。そして2010年、文京区に祐ホームクリニックという在宅医療を専門とするクリニックを立ち上げ、その後、東京都、そして宮城県石巻市で在宅医療を行っています。2015年からはシンガポールでも日本型の在宅医療の展開を行っています。
今回は在宅医療と地域包括ケアの取り組みについて紹介し、そして、そこにICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)を導入していますので、そのことも合わせてお伝えしたいと思います。
●医療法人社団鉄祐会の特徴
まずわれわれの医療法人を紹介すると、現在、東京都内に4カ所、宮城県の石巻市に1か所、合計5カ所の在宅医療のクリニックを運営しています。医師は約50名で、診察中の患者さんは約1300人ほどです。
クリニックの特徴の一つは、重症の患者さんを大勢診ているところです。患者さんの8割はご自宅に住んでいます。年間のお看取りは約180人になりますので、2日に1人はわれわれがお看取りをさせていただいていることになります。その180人ほどの患者さんのうち半分ががん患者の方、残りが非がん疾患の方です。がん患者の方は最近、自宅で最期を過ごすことが増えてきていますので、われわれもそのための在宅医療を目指しているところです。
クリニックの他の特徴としては、教育にも力を入れていることが挙げられます。例えば、われわれは日本在宅医学会の専門医を出すプログラムを運営していますが、そこから毎年1人から2人の専門医を輩出しています。また、クリニックが5カ所に散らばっているので、週に3回ほど5つのクリニックをつないだ勉強会も行っています。一つ目は症例検討会、二つ目はテーマを決めての勉強会、三つ目は臨床研究の勉強会となります。毎年、東京大学、慶應義塾大学、東京医科歯科大学などからたくさんの学生さんたちも研修に来られます。
また、われわれのクリニックでは臨床研究にも力を入れています。MPH(Master of Public Health、公衆衛生学修士)、公衆衛生大学院卒業生が何名もいますが、在宅医療における臨床研究を少しでも前に進められればと思って準備を進めています。
●ICTによる在宅医療は、非効率的ではある
もう1つ特徴を挙げると、ICT を使って在宅医療を行っているところです。在宅医療は医師が一軒一軒訪問して回りますので、ある意味では非効率的な医療の提供となっています。外来の場合、例えば午前中に40から50人の患者さんを診ることはあり得るわけですが、在宅医ですと半日で約5人、多くても6人ぐらいしか診られません。そういう意味では10分の1ほどしか患者さんを診ることができないということです。
その理由ですが、1つには、われわれは移動して診療をしますので、当然移動の時間がかかるということが挙げられます。もう一つ、在宅医療は患者さんの生活そのものやご家族との関係を大事にしますので、外来とは違い、ある意味流れ作業のように診ることができないということです。ですから、大体初診で約1時間、その後も1回10分から15分ぐらいかけて、しっかりと話を伺って、人生の終末期を一緒に組み立てていきます。したがって、自ずと時間がかかります。それ自体、非常に重要なことですが、その中でもいかに効率よく、そして質を担保するような医療を提供できないか、開業以来ずっと考えてきました。
●ICTの利用によって在宅医療を効率化する
そこでいくつかの取り組みを行いましたので、ご紹介します。
まずは電子カルテの利用です。これはクラウド型の電子カルテですので、移動中もしくは自宅でも、カルテを見ることができます。次に、院内のオペレーションの仕組みを富士通さんと一緒に開発してきたことです。われわれは現在、1日に約150件の訪問を行っていますので、そのロジスティックス(以下、ロジ)をしっかり考えていかないと非効率的になります。どのチームがどの順番でどのように回っていけば、最も短時間で回ることができるのか。もしくは緊急の訪問が1日10件ほど入りますので、定期の訪問の中に緊急の訪問をどのように組み込んでいくか。こういったロジ回りをまず現場と切り離すということをしています。
つまり、現場にいるわれわれ医師は患者さんを診ることに専念をすればいいということです。どこに誰が...