●エチオピアでは、複数の複雑な暦が存在する
アフリカ大陸の北東部に位置するエチオピア連邦民主共和国は、日本の国土面積の約3倍の広さを持ち、80を超える民族、さらに100を超える言語が存在するといわれています。エチオピアでは、多種多様な民族文化とともに、複数の複雑な暦が存在します。ここでは、エチオピアにおいて最も広く使用され、公式な暦であるエチオピア暦(現地のアムハラ語で「イェティオピア・ゼメン・アコタタル」)を紹介します。
エチオピア暦は、キリスト教エチオピア正教会の祭日や儀礼を軸とする暦で、コプト正教会に使用されてきた古代エジプトの太陽暦の流れをくみます。エチオピア正教会は、その起源が4世紀にまでさかのぼるとされています。エチオピア帝国時代において国教とされたこのエチオピア正教会は、現在もエチオピア北部の人々の生活に非常に大きな影響を持っています。各教会には、「タボット」と呼ばれる旧約聖書に登場する十戒が刻み込まれた聖櫃(アーク)の木製レプリカが存在します。
エチオピア暦はイエス・キリストの降誕について、グレゴリオ暦とは異なる解釈を持つため、その紀元に関しては、グレゴリオ暦のそれより7~8年遅れているとされます。7年もしくは8年の差が生まれる理由は、エチオピア暦の新年が9月にスタートするためです。9月以前は8年ずれることになります。また9月以降は7年の差ということになります。
エチオピアには13カ月の月が存在します。4年の周期でうるう年がやってきます。最後に1日追加されることになります。4年でひとまとまりの周期とされ、それぞれの年は、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つの福音書の名に分けられています。このうち、ルカの年がうるう年です。より詳しく説明すると、新年はグレゴリオ暦の9月11日に当たります。1月は合計30日であり、最後に5~6日のみで構成される月が存在します。
●「ツォム」という精進期間には、菜食への切り替えが求められる
エチオピア正教会の信者には、数多くの祭日と、「ツォム」と呼ばれる精進期間を守ることが求められます。ツォムは通常、各週の水曜日と金曜日ですが、それ以外にも短期間、長期間、合わせて7種類の公式なツォムの期間が存在します。エチオピア正教会には、トータルすると年間約180日のツォムを信者に求めることになります。当然のことながら、教会に属する聖職者たちには、より厳しく長いツォムの日数、年間250日ほどが課せられます。
通常、エチオピア正教会の信者はこの期間において、バターや肉など動物性のタンパク質の摂取を避けて、菜食を中心とした食生活に切り替えることが求められます。また、お酒や歌や踊りなどの娯楽に繰り出すのを避ける傾向にあります。さらに、日の出から午後の15時ごろまでは、食事どころか一切水分を取らないという信者もいます。この精進期間の実践の具体的な内容に関しては、しかしながら大きな個人差があります。
特に、このツォムの期間に魚を食べて良いか、あるいは食べるべきではないかという意見に関しては、信者間でも大きく考え方が分かれます。いずれにせよ、ツォムの意義は、自らの身を弱めることによって、自己中心的になりがちな人の生活態度を改め、マタイ伝4章にあるように、人はパンだけで生きるものではなく、神の口から出る一つ一つの言葉によって生かされるものであるということを確かめることにあるといわれています。
一般庶民にとって、最も重要で長いツォムは、「アルバツォム」と呼ばれる期間です。このツォムは、いわゆるグレゴリオ暦でいう2月下旬から4月中旬に至る、実に2カ月間弱の長期間に及びます。この禁欲的な生活の厳しさのため、体重が数キロ痩せる人もいます。このツォムの期間は、キリストの復活を祝う祭日ファシカとともに終わります。
日付が変わり、ファシカを迎える瞬間、エチオピアの北部の町々は歓声に包まれます。翌日からは牛の生肉を食べ、蜂蜜酒タッジを飲み祝います。しかし、精進期間に誤って肉を食べてしまうなど何らかの過ちを犯した者は、教会に赴き、ざんげを行い神の許しを乞います。
●毎月1度、聖人を祭る祝日がある
エチオピアの暦においてさらに重要な点は、聖人を祭る祝日の存在です。毎月1度、それぞれの日には聖人の名を冠した祝日があります。エチオピア正教会のそれぞれの教会は、聖人の名を冠しています。信者は通常、家の近所の教会に週末や祭日など、定期的に赴き参拝をします。場合によっては、遠方の自分のお気に入りの聖人の名を冠した教会に赴く場合もあります。月によって、特定の聖人の日が盛大に祝われる日が異なります。
例えば、聖マリア誕生の日、リデタが最も盛大に祝われる月日は、グンボット1日ということになります。また、聖ミカエルの日、ミカエルを最も盛大...