テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

医療の問題を健全なビジネスの視点で解決できるのか

医療とビジネスの健全な関係(1)適者生存と日本の医療

真野俊樹
中央大学大学院戦略経営研究科 教授/多摩大学大学院 特任教授/医師
情報・テキスト
中央大学大学院戦略経営研究科教授で医師の真野俊樹氏が、医療とビジネスの健全な関係という視点で、ヘルスケアビジネスについて解説する。真野氏はアメリカでの経験等を通して、ビジネスとしてのヘルスケアを考えるようになったと言う。幸い、日本の医療は医師の献身的努力もあり、国際的にも高いレベルにあるが、やはり変化にうまく対応して進化すべきときに来ているのだ。(全6話中第1話)
時間:11:17
収録日:2018/08/31
追加日:2019/01/09
≪全文≫

●医療の国際比較からビジネスとしてのヘルスケアまで


 中央大学大学院で教えている真野俊樹と申します。ビジネススクールで教えています。一般的に「ヘルスケア」というと、ビジネスにはなかなかそぐわないと思われているかもしれません。そこでその点を、われわれビジネススクールはどのように考えていくかということを、順を追ってお話ししていきたいと思います。したがって、テーマは「医療の問題を健全なビジネスの視点で解決できるのだろうか」という内容になります。

 はじめに、私のプロフィールを簡単に述べておきます。私はもともと医師で、医学の勉強をずっと続けてきました。医学博士の学位を取り、アメリカに留学したのですが、その時、日本とアメリカで医療制度や医療のビジネスに対する考え方がまったく違っている、もっというと医師の思考方法にも違いがあるということに、気が付きました。そこで、医療とビジネスにおける国際的な比較を始めました。

 そうこうするうちに、製薬会社に入ったり、MBAを取得したりしました。また、中身は経営学なのですが京都大学で経済学の博士号を取得したりして、医療の国際比較や、経営学的に医療経営をどのように考えるか、ビジネスとしてどのようにヘルスケアを見ていくか、こういったことを、ずっと研究してきたというのがこれまでの状況です。


 現在、いくつかの職務に就いていますが、基本的にビジネスの方ではビジネススクールで、医療の方では藤田保健衛生大学や東京医療保健大学など両方の分野で教えたりしています。


●「ヘルスケア」をどう捉えるか


 今回、ビジネスという視点でお話を始めるに当たって、テンミニッツTVの視聴者にはビジネス界の方が多いのか医療界の方が多いのか分かりませんが、一応以下のことを説明しておきます。

 私はここでヘルスケアとビジネスということをお話ししますが、もちろんビジネスといってもお金儲けの要素はそもそも少なく、弱い人からお金をむしりとろうとか、大儲けをしようなどといった話ではありません。ただ、実際にヘルスケア分野でIPO(Initial Public Offering、新規公開株)に成功した企業も増えているので、結果的に非常にリッチになったりして大儲けできるといったことがあるのは事実です。もしかすると、今後他の分野よりもヘルスケアの分野ではそういった機会が多いのかもしれません。

 しかし、ビジネススクールの教員である私としては、患者さんへの価値をいかに高めるか、あるいはいかに持続的に医療サービスを提供できるようにしていくか、その方法を考えよう、といったことも、重要な視点として授業をしていきたいと思っています。

 さらにいえば、通常、ヘルスケアというと予防だけではないかという見方もありますし、逆に医療保険の範疇の分野はヘルスケアとは別だという見方もあります。ここでは、ヘルスケアといった場合、あるいは今回のテーマでは、全てを包含して予防的なところ、つまり保険外のところも保険内のところも扱います。私はもともと医師でもありますので、医学的な部分も全て含めたお話をしようと思っています。


●適者生存-変化にうまく対応できるものが生き延びる


 最初に、医療界で今、求められていることは何かということを考えた場合、「進化」ということを考えてみたいと思います。

 『絶滅の人類史-なぜ「私たち」が生き延びたのか』(更科功著、NHK出版)という本を最近読んだのですが、ここに非常に興味深いことが書かれていました。

 進化の考え方なのですが、進化は「適者生存」という考え方でよく語られます。経営学の世界でも、やはり変化をしていかないとうまくいかない、生き延びることができないとよくいわれています。まさにそれがこの「適者生存」の考え方です。

 ただ、ダーウィンが言っているのは、「強いもの、賢いものが生き延びるのでもなく、唯一生き残るのは変化できるものである」ということです。ここまで深く進化や変化といったことを理解している人はもしかしたら少なく、表層的に「強いものが生き延びる、というのがダーウィンの進化論だ」と思っている人が多いかもしれません。ところが、そうではないというのがポイントで、実際、戦って勝ち残るとは限らないのです。


●適者生存-病院の場合


 これは病院の世界でよくあることなのですが、ある地域にAという病院とBという病院があり、昔から患者の取り合いをしているというような話は結構あります。では、どちらかが勝ち残ってどちらかがつぶれるのかというと、もちろんそういうケースもあり得ますが、ここでダーウィンがいっている進化は必ずしもそういうことではありません。むしろ、環境に適応して子孫を多く残すことが生き残ることだといっているのです。今回の場合、それは企業、病院といっ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。