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毛利家の家臣でも大名でもない不思議な吉川家

敗者の戦後~毛利家と吉川家(2)吉川家という不思議な存在

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
関ケ原の戦いの敗者であった毛利家と吉川家。毛利家は幕府より三分家の藩を認知されたが、吉川家はその毛利家に所属するも単純な家臣ではなく、さりとて純粋な大名でもない。いったい吉川家はどのような存在だったのか。(全2話中第2話)
時間:11:53
収録日:2018/12/26
追加日:2019/02/19
≪全文≫

●高直しには二種類ある


 皆さん、こんにちは。

 長府毛利家、毛利秀元と同じ周防岩国の吉川広家の話の続きになります。前回、秀元が毛利輝元に命じられて検地をしたところ、多くの高を得た。すなわち、検地の結果、徳川家康から領有が認められた三十万石から七十八万石に増えたという話をしました。

 これは大変結構なことだと皆さんは思うかもしれませんが、実は検地の高が直されるというのは、二種類あるのです。一つは、新田開発などによって「荒蕪地」(こうぶち)と呼ばれる本当に荒れた土地が、水田にふさわしい豊かな土地になって高が増えたというケースです。

 もう一つは、実際の生産高は変わっていないけれども、本来米作などできないようなところまで厳密に高を換算するというケース。その結果、百姓たちは苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)を受け、年貢を厳しく取り立てられる。つまり、実際の生産高は変わっていないのに、百姓に課せられる高は三十万石から七十八万石になるとすれば、その差額に関しては百姓が負担することになりかねないわけです。こういう高直しもあり、これは非常に悪い方式なのです。

 このように、高直しには大きく分けると二種類あるということを、念頭に置いてください。


●大名としての格を高くするための高直しも


 このように高直しをすると、今度はそれに合わせて家臣や蔵入地といわれる大名の直轄地も増えるということになります。それに応じて、例えば毛利秀元自身は、最初三万六千二百石という石高を与えられていたのが、五万八千石になりました。この差額は、検地をして高直しをした結果によるものということになりますが、これは多かれ少なかれ、百姓たちの負担としてかかってくるということに、私としては注意を喚起しておきたいのです。

 この高直しのケースが百姓ばかりに負担がいったかどうかというのは疑問ですし、また、証拠もありません。しかし、高直しのケースが新田開発だけでもなかったということで、その二つを合わせて、徳川家の大名は、自分の高直しをし、そのことによって幕府に対して大名としての格を高くしていくことを図ったわけです。こういうケースを念頭に置いて、話を続けていきたいと思います。


●毛利家の単純な家臣ではなく、純粋な大名でもない吉川家


 毛利秀元は長府において藩をつくることが認められました。これは本家か...
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