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孔子の経験を現代風に考え直すことが重要である

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(8)質疑応答2~中国古典と新しい資本主義

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
概要・テキスト
中島隆博氏は、現代中国の経営者が最近中国古典を参照することで経営のヒントを探求していることを指摘した。このことは、「人の資本主義」という新しい資本主義形態において求められる姿勢をまさに体現していると言う。講演後に行われた質疑応答編2。(2018年5月15日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「人の資本主義」より、全8話中第8話)
時間:07:38
収録日:2018/05/15
追加日:2019/04/03
キーワード:
≪全文≫

●新しい社会的想像力を考える上で、孔子はヒントにすぎない


質問 モノやコトの時代の後を問題にしているのに、モノが豊かでなかった前近代の孔子の議論を参照しても、うまくいかないのではないでしょうか。

中島 私は別に、孔子を今よみがえらせようと思っているわけではありません。そんなことは不可能ですので。ただヒントにしたいのは、孔子の登場した時代は、古代中国社会が爆発的に経済発展していった時代でした。それまでの流通が制限されていた時代から大きく広がっていきました。そういった時代に登場して、全く新しい社会的想像力を彼は導入しようとしたのです。

 その一つの例として、「仁」という言葉を取り上げました。今の時代では、別に仁でなくても構わないのです。今の時代も、爆発的に経済の在り方が変容して、発展しています。私はその中で道徳を掲げればうまくいくと思っているわけではありません。そんなことは多分できないでしょう。

 例えば、ピュエットのことを今日は例に取り上げましたが、別に彼は道徳の説教師ではありません。そうではなく、われわれの在り方を問い直すことを日常の中にどう組み込んでいくのか、ということを考えているのです。そうしないとわれわれは、習慣、ハビトゥスに流されていくだけです。それに対して少し批判的な距離を取り、ピュエットの言葉で言うと「この世界に張り付いているようなもう一つの世界」に対する想像力を利用することで、この世界をもう少しましなものにしていこう、という議論なのです。それを私たちの時代にできるかどうか、ということなのです。

 国民道徳という形で上から道徳を押し付けていた戦前の日本の経験を考えると、道徳の押し付けはやるべきではありませんし、不可能だとも思います。そんな上から降ってくるような道徳は機能しません。日常の在り方を少しでも変えていくことで、よりましな方向に変わり、そこにテクノロジーや資本主義を関与させるという形以外にはないのではないか、ということです。


●孔子の経験を現代風に考え直すことが重要である


中島 幸か不幸か、戦後日本は、中国哲学的なものを全部捨て去っていきました。今若い人に論語について語っても全く響きません。もう私は、そういうものだと思っていて、復古的な仕方で「論語も大事だよね」と言う必要はないと思っています。ただ、今申し上げたように、孔子...
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