●現在最も有力なブラックホール候補天体「いて座A*」
次に、私たちの銀河系(=天の川銀河)の中心の話に移りたいと思います。銀河系(=天の川銀河)の中心核とは、「いて座A*」という非常に小さな電波天体として認識されています。
まず、中心を拡大した写真をお見せします。中心には星がびっしりあることが分かります。それらは赤かったり青かったりします。この写真が、赤外線の写真です。
この部分をさらに拡大します。これは16年分見た写真を合成したもので、この星の動きをよく見てみると、この真ん中を重力源として、その周りを回っているように見えます。
実際にこの星々の運動を解析してみると、この中心に電波天体いて座A*があり、そのいて座A*の周りを星たちが楕円状の軌道で回っているということが分かります。この楕円軌道は、太陽の周りの地球の軌道と同じ「ケプラー運動」と呼ばれます。
赤外線では何も見えないのですが、そこにはとても重い何かがあることが分かっています。その重さは計算されており、400万太陽質量であると算出されています。つまり400万太陽質量の見えない質量が、この銀河系(=天の川銀河)の中心にはあるのです。これは現在、最も確実度の高いブラックホールの候補天体です。
●いて座A*は時々チカチカ輝くが、非常に暗い
この銀河系中心核は、前回お見せしたケンタウルスAとは様相が少し異なります。ケンタウルスAの場合は中心核がまばゆく輝いており、両側にジェットが出ていて、とても明るい、派手な天体でした。
それに対して、この銀河系(=天の川銀河)の中心核いて座A*は、電波天体ではあるのですが、とても暗いことで知られています。しかし、単に暗いわけではなく、時々チカチカ輝くことも分かっています。X線や赤外線などで時々輝くのです。
ここにお見せしたのは中心核いて座A*の様子なのですが、ムービーにするとチカチカと光っていることが分かります。1日に何回か光るといった感じです。なぜなのかは分かっていないのですが、この光り方にも時々準周期的なものがあるということは分かっています。これはブラックホールであると見なされる一つの証拠だといわれています。
問題は暗さです。いて座A*は通常(何を「通常」と見なすかは難しいのですが)の活動的な銀河の中心核に比べ、その明るさは1億分の1以下で、非常に暗いということが分かっています。
どうしてこれほど暗いのでしょうか。それを先ほどお見せした式で理解してみましょう。この質量降着率(Mドット)が低いと考えるのが非常に自然だと思われます。そのため、物を落とし込めば輝くだろうと誰もが考えるわけです。実際、現在暗いということは、今はものが落ち込んでいないのだろうと大方の人は思っています。
●100年前にはケンタウルスAのように明るく輝いていた?
では昔はどうだったのでしょうか。実は、過去には明るかったという証拠がいくつか提示されています。一つはX線の観測です。ここにお見せしているのは、X線領域にある鉄のスペクトル線の強度分布です。青い方は低温の鉄原子が放つスペクトル線で、赤い方は鉄のイオンが放つスペクトル線です。
両者は分布が全く違うのですが、鉄の原子の方はスペクトル線が特有で、その分布がこの領域の分子ガスの分布と非常に似通っていることが分かっています。これは、鉄を含むガスの雲に、外側から強烈なX線を照射し、その反射を見るというプロセスで放射されるスペクトル線です。
そのため、ここで青白く見えているのは、そうした「X線反射星雲」と呼ばれるものです。反射はあるのですが、大元が見えません。大元はどうなったのかということが問題なのです。
これは京都大学のグループの研究結果なのですが、彼らの解釈では大元は銀河系(=天の川銀河)の中心核いて座A*で、少し前にはこの中心核が100万倍明るかったと考えると、この様相は説明がつくといわれています。
100年前に明るかったものが今は消えている、ということです。反射は横に行ってからこちらに来ますから、この大元は消えても反射が残ります。そのような状況だと考えられているのです。これが、100年以上前はとても明るかったという証拠だといわれています。
●「フェルミ・バブル」と呼ばれる構造
もう一つ証拠があります。こちらは、「フェルミ・ガンマ線天文衛星」という衛星が発見したものですが、「フェルミ・バブル」と呼ばれる構造です。ガンマ線で全天を見て、天の川...