●縄文人の人骨から直接膨大なDNAを得る
ということで、現代人を調べてもいろいろなことが分かるということが理解できたと思います。やはり実際に3000年前、4000年前、あるいは1万年前にヤポネシアに生きていた人たちの骨から直接DNAを調べることができれば、それは直接的な証拠になります。そこでわれわれは、最初のヤポネシア人ということで縄文人のゲノムDNAを決定できました。
この図は結果だけですが、NGSという略称は英語で「Next Generation Sequencer」です。「Next Generation」とは次世代という意味で、これまでの安くて簡単だと思われていた方法よりもはるかに、それこそ桁違いの大量のデータを出せます。そういう方法が21世紀になって、ちょうどヒトゲノムの決定が終わってから一気に出てきたので、その恩恵にあずかっています。そのような新しい方法で、ヒトゲノムの32億など全く問題にならないぐらいものすごい、それこそ何十億、何百億というDNA配列を、非常に安いお金で入手することができるのです。といっても、最初は100万円ぐらいかかりました。ただ、それをポケットマネーで払うと考えれば高いのですが、研究費の予算でいえば私の研究室でも払えます。ですから決定しました。
そうすると、28億7800万塩基ほど出てきました。これはヒトゲノムの32億よりは少ないのですが、それに匹敵します。ただし、かなりのものはバクテリアでした。われわれは、福島県にある縄文時代末期の三貫地貝塚から見つかった人の歯からDNAを抽出したのですが、3000年ほどたっていますから、そこにはもともとの歯の中の細胞(人間の細胞)由来のDNAもありますけれども、その後貝塚の中のいわゆる死体にどんどんと入り込んできた菌、カビ、あるいはバクテリアといったものがたくさんあるわけです。
そうしたDNAは、先ほどもお話ししたように生物共通ですから、バクテリアであろうと人間であろうと同じDNAです。それは、機械では区別できません。将来的には今いろいろな新しい方法が出てきて、ヒトゲノムだけを集めるという方法も開発されていますけれども、とにかく決めたということです。そうすると、28億の中で、1億1500万はヒトゲノムの配列とそっくりで、人間のものに間違いないということが分かりました。
これは膨大な数です。今までのミトコンドリアDNAは1万個ぐらいで、あるいはわれわれがABO式血液型などでやった、せいぜい数百ぐらいとは、全然桁が違います。このような膨大な数なので、今世界中でいろいろな集団のゲノム配列が決められていますが、そのゲノム配列と約1万5000から約7万個を比較することができたので、詳しいことが分かったわけです。
●縄文人と、他の人々のゲノム配列を比較分析する
これは2年前、つまり2016年の論文です。論文を作るには数年間かかりますので、作り始めたのはもう5年以上前のことです。このように今、世界中では、一気に増えていますので、たくさんの人たちのゲノムDNAが決められています。それを比較できます。われわれ日本に関しましては、まだその当時はゲノムデータがなかったので、先ほどいいましたSNP、つまりわれわれ自身が論文で発表したアイヌの人々、あるいは沖縄の人々、あるいは東京の人々を比較しました。
そうしますと、まず世界全体で見ると、アフリカの人々、つまり出アフリカをしないで残った人と、出アフリカをして東と西に分かれた人、つまり東ユーラシア人、西ユーラシア人(他にはさらにアメリカやオーストラリアに行った人たちもいますが、さておいて)、この3つの集団で大きく違っているということは、昔から知られています。
では縄文人はどこにくるか。すなわち、縄文人がまさに住んでいた、われわれヤポネシア(日本列島)が存在する東ユーラシアの現代の人々に近いのです。けれども、結構離れています。これが面白いところです。
しかも、この3つの集団でできる三角形を考えてください。その中にあります。これは重要です。外にあればまた話は違うのですが、この内側ということは、わずか3000年前ではありますけれども、より古い人々の状況を持っています。つまり投影すると、もしOut of Africaよりも新人、つまり現代人の祖先をどこに持ってくるかとすれば、この辺りのどこかにくるでしょう。強引にやれば、この三角形の中にくるはずです。ですから、縄文人は、より古いものを残しているように見えます。
とにかく、アフリカ人と西ユーラシア人はかなり離れているので、これを除いて東ユーラシア人と縄文人だけを比較しました。そうすると、見事にヤマト人が浮かび上がってい...