●重力波の検出とブラックホールの形成
話は変わりますが、2016年にあるイベントが巷をにぎわせました。重力波の検出です。重力波は、私の目が黒いうちは検出されないだろうとタカをくくっていましたが、いきなり検出されて驚きました。
ここに挙げたのは2例です。両者とも、ブラックホールの合体に伴う重力波の放射であることが分かっています。この重力波のシグナルから、非常にきれいなモデルができており、これを解析することで、どのような質量のブラックホールが合体し、その結果どのような質量のブラックホールができたのか、というところまで計算できます。
このブラックホールの合体がどこで起きたかということも分かっています。この2例は、かなり遠い宇宙にある銀河の中で起きた、ブラックホール合体イベントであると分かっています。これを観測したのは、「Advanced LIGO」という重力波観測装置です。現在のところ、重力波イベントは6例が観測されています。
そしてその6例のうち、5つがブラックホールの合体に伴うものだと見なされています。この事実に、私たちは非常に興奮しています。なぜかというと、ブラックホールは合体するということが観測されてしまったからです。つまり、これは恒星質量ブラックホールが合体して中質量ブラックホールへとなっていくさまを見ているということです。
言い換えれば、大枠として、恒星質量ブラックホールが合体して中質量ブラックホールになり、さらにその中質量ブラックホール同士が合体して超大質量ブラックホールになるという筋書きのうち、一部が完全に見えるようになったということです。それゆえ、ブラックホールの成長に関していえば、ここ数年で急激に研究が進んだといえます。
●野良ブラックホールが本当にブラックホールなのか確認するために
これで終わりかというと、そんなことはありません。確かにここまでお話しした通り、銀河系(=天の川銀河)内のブラックホール候補天体として、野良ブラックホールがいくつか見つかり、ほとんど見えていなかったものが見え始めています。また、銀河中心部分で中質量ブラックホールの候補が発見されました。そして重力波も検出され、ブラックホールは合体成長した結果、銀河中心核の超大質量ブラックホールが形成、成長していくという筋書きが見えてきました。
それでは次に何をするべきなのでしょうか。もちろん、研究はエンドレスなものであり、やることはいくらでもあります。次々と疑問は湧いてくるのです。
特に今足りていないのは、どのブラックホールもいまだに候補天体にすぎず、画面の右写真にある、ブラックホールのシャドウといわれる穴が直接見えたことがないということです。すなわち、ブラックホールは直接撮像されたことがない、ということです。
今までどの観測事実も、ブラックホールがあるとうまくいくという話にすぎません。ブラックホールでなければならないというのは、重力波ぐらいです。電磁波的な観測では傍証でしかない、つまり間接的な証拠でしかないわけです。
そのため、私たちがブラックホール候補だといっているものが、本当にアインシュタインの一般相対論で予言されたようなブラックホールなのかということは、やはりきちんと確認しなければなりません。
そのための方法はいくつか提唱されています。1つは、そのブラックホール周りの降着円盤の中で起きる準周期的振動を見るという手です。これは一般相対論的な効果で生じるということが分かっているので、この降着円盤の回転周期に関係するものです。
もう1つは、やはりブラックホールの直接撮像です。右側の写真のようなものが撮れれば、それは決め手になります。
このように、ブラックホール研究は最近、急激に進捗を見せており、またさらに展望が楽しみになってきています。
●ブラックホール研究は何の役に立つのか
最後に、このブラックホールの研究の意味を簡単にお話ししたいと思います。
ブラックホール研究は、いうなれば「世の中の役に立つ」という類のものではなく、私たちの日常生活と直接は関係がありません。特に私たちが見ているブラックホールは、何千光年、あるいは私たちの銀河系(=天の川銀河)の中心核であれば2万7000光年といった、はるかかなたにあるブラックホールの話です。こうしたものが私たちの生活に影響するということは、まずありません。
ではなぜそんなことを研究するのかと、よく聞かれます。何回も聞かれるので、当然私の中で答えは用意してあります。それはおそらく、ブラックホールに限らず、基礎科学研究に共通するものだと思っています。
私たちは、何100億円、何1000...