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政治メディアの在り方をも変えるトランプ大統領の行動

2019年激変する世界と日本の針路(2)攪乱するトランプ政権

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
トランプ大統領の行動はさまざまな波紋を呼んでいる。自由貿易には反対し、アメリカ・ファーストを推し進めている。また、オバマ政権が残した枠組みからはことごとく離脱し、Twitterを利用して政治メディアの在り方も変えてしまった。彼はいったいどこに向かおうとしているのか。(2019年1月28日開催島田塾会長講演「激変する世界と日本の針路」より、全14話中第2話)
時間:08:32
収録日:2019/01/28
追加日:2019/05/15
カテゴリー:
≪全文≫

●自動車に関税がかけられると日本にも影響が出る


 そうしたら、ドナルド・トランプ大統領が「自動車にも今度関税を掛ける」と言ったのです。それまで鉄鋼に関税が掛かっていて中国は非常に困っていたのですが、日本はそれに掛けられてもあんまり響きません。というのは、日本の鉄鋼は非常に高品質なのです。これがなければアメリカの製造業が進まないほどの高品質です。ですから、25パーセントの関税が掛かっていても、アメリカは日本の鉄鋼を買うわけです。

 ところが、自動車に関税を掛けられると日本は少しまずいことになります。そしてヨーロッパもまずい。ドイツがやられてしまうからです。そこでドイツも相当注文をつけたので、2018年7月に「それでは、そういう製品以外のところで全部無関税にする交渉をしましょう」ということで交渉が開始ということになりました。つまり、自動車関税については一時休戦(棚上げ)ということです。

 これに関しては、日本も怯えていました。そこで安倍晋三首相が2018年9月末にトランプ大統領に会ったのですが、安倍首相は結構頑張りました。アメリカがそのようなことをいうのは雇用がほしいからでしょう、と。そして、日本は一生懸命に投資していて、工場を造って貢献していると言ったら、では日本とTAG(Trade Agreement of Goods、物品交渉)に向けた交渉を開始しようということになりました。

 なぜなら、トランプ大統領は「フリー」や「自由貿易」という言葉が嫌いなのですね。ですから、北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Area)をやめて、新しい枠組みとなりました。名前はUSMCA(United States-Mexico-Canada Agreement)です。要するにFree とTradeがないのです。


●トランプ大統領はアメリカ・ファーストを煽っている


 トランプ大統領だけがおかしいという感じがするのですが、そうではないのです。最近アメリカの世論がとても反中国になってきているのです。後で詳しく話しますが、副大統領にマイク・ペンスという方がいます。彼は非常に真面目な人ですが、強烈に悪意に満ちた演説をハドソン研究所でやったことがとても有名になりました。冷戦の始まりではないかと言われていますが、今はそのような雰囲気です。

 ここまで最近起きていることを話しましたが、こういったトランプ大統領のやっていることは、実は全部、選挙公約なのです。選挙中に公約をしたことです。次のようなことを言ったのです。「中西部や南部のラストベルトの選挙民には仕事が不足しているが、これは中国や日本にだまし取られている。だから俺が取り戻してやる。彼らに高い関税を掛けて取り戻してやる」。私は、そのトランプ大統領の演説をたまたまテレビで聞いていたのですが、彼はこのような言い方をしているのです。

「Your jobs have been ripped off and shipped off to China and Japan. I gonna get back to you guys.(あなた方の仕事は中国や日本にだまし取られ、送りだされています。私はあなた方のために取り戻します)」

 アメリカの最大の主張はアメリカ・ファーストです。どこの国でも自国ファーストなのですが、彼の場合は意地汚くて、排外主義、保護主義、国際協調否定です。大統領になって、たちまちバラク・オバマ前大統領が行ってきたことを全否定しました。オバマケア法(医療保険制度改革)は作り替えて骨抜きにして、TPPはオバマ大統領の仕組みだったので離脱して、イランの核合意からも離脱です。気候変動に関するパリ協定ですが、アメリカと中国が入ったことで「地球は大丈夫」といわれるほどの協定でしたが、そこからも離脱しました。

 それから、オバマ氏が大統領になったのはリーマンショックの直後ですから、アメリカは金融不況でした。都市銀行は散々勝手なことをしてきたので、その行動を制約するドッド・フランク法を立法したのですが、これも全部骨抜きにしました。また、オバマ氏のレガシー(遺産)としては、キューバと国交回復が挙げられます。これも今ほとんどやめさせようとしているのです。


●トランプ大統領はWTOの枠組みを壊している


 トランプ大統領の行動で注意しなければならないのは、WTO(世界貿易機構)を非常に攻撃していることです。WTOはビル・クリントン元大統領が一生懸命つくったもので、紛争解決の手続きをする機関です。基本的には二審制になっています。一審と二審とあって、トラブルがあるとまず持ち込みます。一審で答えが出たらそれでいい。しかし、そこで解決つかないとなると、二審に持っていくのです。二審では上級審で各国の人が裁判官の役割を果たすのですが、1件処理するのに3人の上級審判委員が必要なのです。その上級審判委員は7人しかいないのです。150カ国がメンバーですが。

 そうしたら、2017年の8月27日、トラン...
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