●長期の気候変動も天候のベースを決める
ここでもう一度、今までのおさらいをします。
まず、天候のベースを決める地球温暖化は、もうすでに進行していて、今後もしばらくは続いていくと予測されるということです。さらにここに、長期的な気候の変動が乗っかってきます。これも実は天候のベースを決めており、いわゆる温暖化の加速あるいは減速をもたらすことが最近の研究で分かってきました。その二つによる天候のベースに乗っかってくるのが短期的な気候変動です。それによって、異常気象などの極端な現象が起こることが、最近は分かってきました。そこで今回は、2つ目の長期的な気候変動について、簡単に紹介しておきます。
●温暖化は加速期と減速期を繰り返している
上の資料の図は以前にお見せしたのと同じ図ですが、地球全体の平均気温の推移を年平均で表したものです。19世紀の終わりから、ごく最近まで書かれています。先ほどまで注目してきたのは、図の中の赤い直線です。これが気候変化のトレンド、つまり地球温暖化です。大体、100年で約0.7度の気温上昇でした。
今注目したいのは図の中の青い線(5年移動平均値)です。これを見ますと、温暖化が加速する時期と停滞する時期(減速期)を繰り返して現在に至っていることが、明らかになると思います。この減速期のことを「hiatus」とも呼ぶことがあります。
興味深いことに、加速・減速の時期は、熱帯太平洋の中部および東部の水温偏差の時系列とよく対応しています。1970年代後半から90年代の終わりにかけた最近の温暖化の加速期には、水温が非常に上昇する傾向がありました。その後、水温が低下する傾向にありまして、それと期を同じくして、地球全体の温暖化のペースが緩んだわけです。加速期の前にも、実は停滞しています。
ただしこれは、温暖化対策が実を結んだというわけでは全くありません。温室効果気体は着々と増えています。よって、これはあくまでも自然の気候の変動によるものです。
その一つは、この人為起源のエアロゾルの影響です。それが、1950年代や60年代の減速期に働いていたと考えられています。しかし、より重要なことは、先ほどお話しした自然変動としての熱帯における太平洋の変動です。実は最近、また強いエルニーニョが2015年に起き、気温の上昇も再び始まりました。それはつまり、温暖化の加速が始まったというわけです。
●温暖化の減速期には夏冬の季節性が拡大する
これは温暖化加速期と減速期についての資料です。まず上の2つの図ですが、どちらも温暖化減速期における気温変化の傾向を分布図で示したものです。左側の図が北半球の冬、右側の図が北半球の夏を、それぞれ表しています。これらは、2000年代の最初の10年における気温の変化傾向を、それぞれの地点で示したものです。
先ほど注目したのは、これらの図における白い四角で囲った部分です。いわゆるエルニーニョが起こる海域です。この海域がよりラニーニャ的になってきた、つまり低温下してきていることが分かります。
この熱帯の水温が下がってくると、当然、水蒸気量が減ってきますので、これは降水も減ってくるわけです。そうすると、凝結熱の出され方が下がってくるわけで、それに伴って大気の循環が応答します。そうなると実は、熱帯だけではなく、広い範囲に大気の循環異常をもたらします。これは、数値実験からもきちんと確かめられています。特に、北半球冬季の大陸上において、低温を示す青い色が目立っています。
このように温暖化の減速とは、主に大陸の上において、寒い冬が起こりやすくなってきた傾向を反映したものだといえます。一方、夏は逆に温暖化傾向にあります。ですから、いってみれば、季節性、すなわち夏と冬のコントラストがよりはっきりした期間であったといえるでしょう。
右下の図は、対照的に温暖化の加速期を表しています。熱帯における太平洋の水温が、先ほどとは対照的に上昇しています。それに伴って、特に北半球において気温の上昇傾向が顕著に見られます。
●北極海の温暖化と海氷減少によるユーラシア中緯度の寒冷化
もう一つ注目したいことがあります。ここ最近における温暖化の減速期では、(冬季の)低温の寒冷化傾向が、特にユーラシア大陸の中央部(中緯度)において非常に顕著だということです。実は、熱帯太平洋の水温の偏差を与えた数値実験では、このユーラシア大陸の中緯度における寒冷化が、うまく説明しにくいわけです。そういったことが分かってきました。
その寒冷化の原因として有力なのが、実は、温暖化に伴って北極海で減少している氷の影...