●普及が進む手術ロボットダヴィンチと医療経済
さて、先日は、手術ロボットダヴィンチが可能にした新しい外科手術のイノベーションについて、お話をさせていただきました(参照:ロボット手術が拓く外科イノベーション「ダヴィンチ」)。今日は、この手術ロボットダヴィンチが、医療に、あるいは医療経済にどういう影響を与えるかについて考えてみたいと思います。
現在、この手術ロボットダヴィンチは、米国ではもうすでに1500台近い台数が導入されています。日本では、導入から2年経った現在の導入数は170台で、アメリカの10分の1の規模で普及しています。隣国の韓国では現在約50台です。もともとは韓国のほうが日本よりも先にスタートをしていましたが、現在、台数だけにおいては、日本のほうが韓国を上回っています。さまざまな市場規模、経済規模、その他を考えますと、日本においては、おそらく300台近いダヴィンチが今後導入されていくのではないかと言われています。
●日本の輸入医療機器はなぜ高いのか
現在、日本では、保険診療としてこのダヴィンチ手術を行えるのは、前立腺がんに対する前立腺を摘除する手術だけにとどまっております。しかしダヴィンチ手術は、前立腺がんの他にも、膀胱全体を摘除する、あるいは腎臓を部分的に摘除する、そして子宮や卵巣、大腸、整形外科、甲状腺、そして心臓外科等、海外ではほとんど全ての領域で可能になっておりますし、また例えばアメリカでは、通常の開腹手術をしても、ダヴィンチで手術をしても、手術の料金、治療費は全く変わりません。
なぜ、日本とアメリカ・ヨーロッパ・韓国におけるこうした相違の問題が起きているのかを少し考えてみたいと思います。
アメリカ、ヨーロッパ、韓国では、ダヴィンチの価格は1台およそ2億円弱です。ところが、日本では現在約3億6000万円と、2倍弱の費用がかかってしまっています。
実はこういった状況はダヴィンチに限ったことではなく、海外から輸入されるほとんど全ての医療機器は、通常、例えばアメリカに比べて、およそ2倍から3倍の費用がかかっていることが指摘されています。これは例えばTPPに代表されるような関税が問題なのかというと、そうではありません。意外なことに、医療機器の輸入に関して、関税はほとんどかかっていません。
では、なぜ日本において輸入医療機器にこれだけのコストが発生しているのでしょう。こちらの表をご覧ください。日本と海外においては、二つの大きな違いがあります。
一つは、例えばアメリカ、ヨーロッパ、また韓国においては、ほとんどの取扱説明書が英語で書かれています。そのまま世界中に通用するグローバルな言語で作成されているという事実があります。ところが日本の医療機器に関しては、必ずそれを日本語に訳して、そして、日本人が説明をするということになっており、実際それを製造している人とはまた別に、流通に携わる人が一つ一つの医療機関を訪問して、医療機器について医師に説明をすることが必要になってきています。非常に広い意味で言えば流通と言えますが、こういった医療体制、使用言語、その教育、また、日本ではこうした輸入業者の人々が病院に足を運んで医療機器が安全に使われているかどうかを指導、あるいはアドバイスするというシステムもあり、こういったことが、非常に高コストになっている一つ大きな原因ではないかと言われております。
●日本の医療費における低集約性、非効率性の問題
もう一つの問題は、医療機関の集約性の問題です。
例えば韓国においては、「ビッグ5(ファイブ)」と呼ばれる五つの巨大病院があり、集約化が非常に進んでいます。その五つとは国立ソウル大学、カトリック大学、延生(ヨンセ)大学の各大学病院と、サムスン、ヒュンダイという大企業の保有する病院、この五つの病院が、大雑把に言うと韓国の国民の約半分の医療を担っているという現実があります。一病院あたりの総病床数は少なくとも2000ベッド以上が一つの基準と言われていますが、医療機関が非常に高い集約性を持って運営されている実態があります。
医療の集約性についてはアメリカにおいても同様です。平均在院日数が極めて短いということにも象徴されるように、療養の場というよりも、必要な治療をできるだけ効率よく行うという発想で、こうした大病院が運営されています。
日本においては、これはいいことでもありますが、たくさんの中小規模な病院がきちんと運営をされています。しかし、病院が多ければ多いほど、そしてダヴィンチが導入されればされるほど、そこにはいろいろな人手が必要になってきます。この人手の一つが、単に医師、あるいは看護師、薬剤師、検査技師、放射線技師といった医療に直接携わる人だけではなく...