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太平洋側に降る雪も社会的影響が非常に大きい

雪氷防災の今とこれから(5)2014~2015年の雪氷災害

上石勲
防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター 特任参事/長岡技術科学大学 客員准教授
情報・テキスト
2014~2015(平成25~26)年の冬も、雪による記録が塗り替えられた。2月には首都圏をはじめ関東と東北の太平洋側に大雪が降り、山梨県甲府市では過去最大かつ2倍もの積雪を記録した。この年の後半にも多くの雪が降り、建物の倒壊が相次いだことが分かっている。そのメカニズムは、降雪量だけではないという。(全7話中第5話)
時間:08:23
収録日:2019/04/05
追加日:2019/06/13
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≪全文≫

●日本海側に大きな被害をもたらした2014~2015年の雪


 前回は、最近の雪氷災害として2017~18(平成29~30)年の冬の状況についてお話ししました。今回は、同じようにたくさん雪が降り、さまざまな障害を起こした2014~15(平成25~26)年の冬を振り返ります。

 地図上の色分けが、気象庁のまとめた積雪深の平年比で、赤ければ赤いほど例年よりも多く雪が降った地点です。

 この冬は日本全国、特に日本海側で雪がたくさん降り、いろいろな障害が起きました。北海道では大雪・吹雪による長期通行止めがありました。西の方ではシリーズ第3話でお見せした徳島県の着雪による災害も起きています。新潟県内でもたくさん雪が降り、妙高市や湯沢町などでいろいろな災害が起きました。


●多くの建物を壊した、雪の合間の気温上昇


 この年は、建物の倒壊が非常に多かった年です。倒壊事例をまとめて表に示してみました。北海道、東北、北陸地方まで、いろいろな建物の倒壊例がありました。

 こちらは各地で建物が倒壊したときの新聞記事です。雪の重みで住宅がつぶれたり、物置がつぶれたり、発電所のような丈夫な建物もつぶれてしまうという事態が、2014~2015年の冬期には起こっています。

 倒壊の原因の一つは雪がたくさん降ったことですが、雪が降らなかった時も(気候が)悪さをしたということが最近分かりました。

 グラフ上、水色の線が積雪深の変化です。雪が降るとこの線が右肩上がりになり、下がっていくのは雪が降っていないときということになります。

 雪の降っていない時間帯に注目すると、気温が結構高いこと、雨が降ったりしていることが分かります。たくさん雪が降った後に気温が上がり、雨に変わります。その後、また冷え込んで雪が降ります。そうすると、降ってきた雨が雪の中に染み込んでいくので、雪がスポンジのように水を吸って重くなります。そのため、多くの建物が雪の重みで倒壊することになったのです。

 このことは、最近になって分かってきました。雪の量だけでなく、雪の降らない間も、災害に直結するような原因が出ているということです。やはり今後、研究を進めていくべき部分だといえます。


●太平洋側に降る雪も社会的影響が非常に大きい


 2014年2月には、太平洋側でもたくさん雪が降りました。こちらは甲府市内の状況ですが、駐車場の屋根がつぶれたり、山間部では雪崩が起きたりして、いろいろなところに障害が起きていました。

 このときは、日本海側ではなく太平洋側でたくさん雪が降りました。例えば、山梨県甲府市では114センチ、過去最大かつ2倍以上の雪が降ったことで、非常に大きな社会的影響を及ぼしました。

 全国の被害状況を見ると、亡くなった方が26人、けがをされた方が1000人以上とありますから、けが人の正確な人数は把握しきれなかったのでしょう。農業被害は約1,700億円、建物被害も数千カ所に及び、屋根が壊れたり雨どいが壊れたりして、保険会社の調査によると数百億円から数千億円の被害にのぼったそうです。非常に大きな自然災害です。また、停電もありましたし、山間部では雪崩が多発したために、長期孤立した地区が130カ所に及びました。

 亡くなった26人の内訳を見ると、山梨県では落雪や一酸化炭素中毒、群馬県では車庫の倒壊や建物の倒壊、車の中の一酸化炭素中毒が原因となりました。

 普段あまり雪の降らない地域では、雪対策の施された建物が少なく、住民の方の雪に対する心掛けもうまく育っていません。突然見舞われたことも原因で、雪の害が大きく広がってしまいました。

 このように、太平洋側に降る雪についても社会的影響が非常に大きいので、今後とも雪害に対する注意を払う必要があります。

 具体的には、先ほどのような小さな建物だけでなく、中学校の体育館や野菜集配所のような大きな建物も倒れてしまい、農業用ハウスもたくさん倒壊しました。

 私は、大雪の後に山梨県に入り、地元の行政の方と一緒に1カ月ほどいろいろな場所を歩きました。山間の雪道を行くには、スノーシューや「かんじき」なども有効な手段になります。このようにして孤立した集落に向かい、住民救助のお手伝いをさせていただいたわけです。


●地震の後の雪が心配な仮設住宅の人々


 少しさかのぼりますが、2005(平成17)年の新潟...
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