●アフォーダンスを特定するのは刺激ではなく情報
アフォーダンス心理学の特徴の1つは、アフォーダンスを特定するのが情報だということです。「特定する」は、英語で“”specify”“specific to”と言いますが、「警察が犯人を特定する」というように、アフォーダンスを特定するのは情報です。刺激ではなく、情報だということです。これについては後でまた説明します。
その情報は解釈するのではなく、ダイレクトに知覚されます。ジェームズ・ギブソンは“direct perception”という言葉をつくりました。Indirect(間接的)に知覚されるものではなく、情報の中にアフォーダンスを特定するものがそのままある。そのアフォーダンスを特定するマクロな単位のことを「エコロジカルなインフォメーション」と呼んだのです。
確かにわれわれは考える動物です。「考えない」ということは難しいのです。しかし、言葉にする、考える、思い付く、その前に知っていることを「無意識」というのは少々疑問が残ります。ギブソンは「注意、意識(awareness)」と言いましたが、周りに対する思考とか言葉を介さずに知っている、そういうことを「インフォメーション(information)」と言っているのであり、それがアフォーダンスを知るための根拠になっているのです。
●「意味が先」で、知覚はぼんやりした状態からきめ細やかに分化する
もう1つ、アフォーダンス心理学の特徴についてお話しします。
「なんだか分からないけれども、これかな」と思うことがよくあると思います。「なんか分からないのだけれど、あいつと気が合う」とか、「うまく言えないけれど、あそこに行くと気が落ち着く」などといったことです。
例えば、食器や衣服を選ぶとき、なぜそれを選んだのかということははっきりと言えないでしょう。それを目の前に置いたときの自分の生活の変化というもの、すなわち意味を感じて、それを選んでいると思います。つまり、まずはぼんやりとアフォーダンスに気付くのです。そして、「なぜこれがいいのだろう」という探りが始まって、だんだん「こういうわけでいいのか」と感じて、アフォーダンスについての意味がしっかり分かってくる、確実になってくる、そして見方がきめ細やかになってくる、ということです。
このようなことを「知覚の分化説」といいます。知覚は最初、ぼんやりしていて、だんだん“differentiation”(分化)して、きめが細かくなっていくのです。子どもも最初、お母さんを見てとても大事な存在として意味を感じていて、それからお母さんのいろいろな側面に気付いていきます。「一目ぼれ」ということがあります。恋愛もそうかもしれませんが、「意味が先」ということです。これがもう1つの特徴です。
●アフォーダンスの広がり~リハビリテーション
いろいろな領域でアフォーダンスという概念が言われ始めています。日本では特にリハビリテーションの領域で、アフォーダンスという言葉がよく使われています。
理学療法や作業療法士の方たちの仕事を例に挙げます。例えば、脳卒中や脳梗塞でどちらかの脳に出血や梗塞が起きて身体が片側だけ麻痺した場合です。仮に片手が麻痺したけれども、もう片方は動くというとき、両手を使う作業をするというのは重要なリハビリになるため、例えばせっけんを使います。せっけんが与えるすべりやすさが加わると、あまり動かなかった方の手が健常である方の手とかみ合うようになるのです。せっけんを挟んで両手を使うと、うまくできなかった両手使いというものが協調するようになるのです。このような形でものを使って行為を導き出すという方法があります。これもアフォーダンスを使っているわけです。
それから、パーキンソン病の人などの場合、歩き始めはまっすぐな歩行を維持するのが結構大変なのですが、病院では壁や床に横断歩道のようなストライプを描くということをします。そうすると、動き出しも楽になるし、動き出した後、歩行が安定してそれを維持するのが可能になるということが分かっています。われわれは移動するときに横の流れを見ているのですが、その流れを見やすくする関係をつくっておくと、歩きやすくなるのです。
●アフォーダンスの広がり~アート、建築
また、アートの世界でも、例えばプロダクトデザイナーの深澤直人さんは「アフォーダンスが伝える環境のリアリティは、知識化・情報化された社会における身体の本音である」と言っています。ここに映っているのは、深澤直人さんがデザインした加湿器です。深澤さんは日本民藝館の館長でもありますが、民芸の「...