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「ローマ史の中には人類の経験が全て詰まっている」

教養としての世界史とローマ史(7)基軸としてのローマ史

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
ローマ史は世界史の基軸であり、ローマ史には歴史の全てが詰まっていると、さまざまな人物がそれぞれの言葉で語っている。また、最近は世界史ブームとよくいわれるが、本村凌二氏はそれを否定する。それはなぜか。重要となるのはグローバル・ヒストリーという概念である。(2018年11月28日開催テンミニッツTV特別講演会<教養としての「世界史」と「ローマ史」>より、全11話中第7話)
時間:05:24
収録日:2018/11/28
追加日:2019/08/03
タグ:
≪全文≫

●ローマ史には全てが詰まっている


 ここからは、「教養としてのローマ史」というテーマでお話しすることになります。これは私が何度も言っていることなので、いろいろなところでお聞きになった方もいらっしゃるかと思いますけれども、世界史におけるローマ史の重要性についてお話しします。

 人類の文明史というものは、実のところせいぜい5,000年ほどです。それは要するに、文字がなければ結局のところ記録が残らないので、文字が使われるようになって5,000年しかたっていないからです。さらに、よく考えてみると、その5,000年のうちの4,000年を古代史が占めています。

 古代の末期は紀元800年くらいです。つまり、カール大帝がローマ皇帝として戴冠した時期です。これはもちろん神聖ローマ皇帝につながる称号ですが、その時期をもって古代の終わりとすると、人類の文明史のうち4,000年は、古代史で流れているということになります。そして特に、古代史4,000年の中でも最後の1,000年くらいが、いわばローマ史というわけです。

 ですから、「全てはローマ史に流れ込み、ローマ史から全てが流れ出る」、そういったことがいわれるわけです。これは、「近代歴史学の父」といわれている、レオポルド・フォン・ランケという、19世紀ドイツの学者による言葉です。

 それから日本では、ご高齢の方はご存じだと思いますけれども、戦後の代表的な知識人に、丸山眞男という政治史の大先生がいらっしゃいました。彼がある対談の中で、「ローマ史の中には人類の経験が全て詰まっている」「ローマ史は、ある意味で社会科学の実験場である」といったことを話しています。

 それから塩野七生氏は、ルネサンスなどいろいろなことを扱っていらっしゃいましたが、最後にいわばライフワーク的に、ローマ人の物語をお書きになりました。ではなぜローマ史を扱ったか。いろいろなネタがあの中に詰まっているといったことで、彼女は「ローマ史は世界史のブランド品なのだ」と、彼女なりの表現でおっしゃっていました。


●「世界史はもうブームではない」


 われわれが今この21世紀に生きていて、テンミニッツTVもそうですし、それから書店の本棚にも、世界史を扱った本がたくさんあります。これまではいわば日本史ブームだったのに対して、最近は世界史ブームだといわれます。しかし私は、ブームであるとは思っていません。

 それはなぜでしょうか。これまでは、日本史と世界史、あるいは日本史と外国史という形の区分をしていました。それは、われわれが明治以来、近代的なヨーロッパの学問を受け入れる中で、日本史と世界史という区分をつけていたわけです。しかしながら、20世紀の末から現在において非常な勢いで、グローバル化や国際交流が進んでいます。

 つい1970年代くらいまでは、誰かがヨーロッパに旅行するとなると、羽田に行って万歳三唱をしていたような時代です。新婚旅行でもないのに、今から見れば少し笑えるような話ですが、それは要するに、一生に一度しか行けないだろうと、みんなが思っていたからです。

 ところが1980年代になってからは、人々はどんどんどんどんと海外へ行くようになりました。私自身も80年代半ばからこの30数年、毎年海外に出掛けるようになりました。こういう時代が来るとは、昔は誰も予想していませんでした。そうした状況が急激に起こり、いわば日本史と世界史という分け方がもう通用しない状況になりました。

 そういった意味で、今は一面では世界史ブームに見えるのですが、それは実のところいわばグローバル・ヒストリーとしての世界史であって、その中には日本史も含まれるのです。ですから私は、「世界史はもうブームではない」と、そう強調しておきたいのです。
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