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そもそもなぜ国家は存在するのか?

国家の利益~国益の理論と歴史(13)そもそも「国益」とは何か?

小原雅博
東京大学名誉教授
概要・テキスト
「国益(国家の利益)とは何か」との問いは、「国家とは何か」と「利益とは何か」という二つの問いに分解することができる。これまでの講義で歴史的に明らかにしてきた国家の成立理由をもとに、今回は「国家理性」と「権力政治」の観点から、国家が並存する国際社会の中での国益について分析していく。(全16話中第13話)
時間:08:18
収録日:2019/04/04
追加日:2019/08/04
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≪全文≫

●なぜ国家は存在するのか?


 皆さん、こんにちは。そもそも「国益」とは何か。この問いに対して、国家の理性(国家理性)という側面から考えていきましょう。

 「国益(national interests)」とは、文字通り「国家の利益」です。したがって、「国益(国家の利益)とは何か」との問いは、「国家とは何か」と「利益とは何か」という二つの問いに分解することができます。

 まず、国家について考えてみましょう。私たちが生きている世界は「国際社会(international community)」と呼ばれます。「international」は「inter」と「national」、つまり国家(nation)を主たるプレイヤーとする、国家と国家の間の関係をいいます。これが「国際関係」という関係であり、そうした国家が並立している社会を、国際社会といいます。

 グローバル化の時代、多国籍企業やNGO、テロリストなどの「非国家主体」と呼ばれるプレイヤーの役割が高まっていますが、中心的役割を果たしているのが国家であることに変わりはありません。また、予見し得る将来にわたって、国家を超える主体、例えば世界政府が誕生する可能性もほとんどないでしょう。


●国家が必要な三つの理由


 国家の歴史は2千年以上続いてきましたが、今後もその歴史は続き、主権国家が並存する国際社会という基本構造が大きく変わることは考えにくいでしょう。

 なぜ、国家はこれほど長くかつ至上の存在として続いてきているのでしょうか。それは、国家を必要とする理由があるからです。最大の理由は、私たち一人ひとりの生存と安全の確保のためです。国家はそのために主権を行使し、国民の前で「国家の存在理由(raison d'e-Tat)」を明らかにしてきたのです。

 近代主権国家の場合、それは対内主権の行使としての警察による治安の確保や裁判所による権利の保護であり、対外主権の行使としての外交や軍事による平和と安全の確保です。

 それは、16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパにおいて誕生した主権国家の歴史を紐解けばよく理解できますし、このことは、これまでに説明してきたとおりです。


●「国家理性」は、国防と治安を究極の目的とする


 さて、16世紀から17世紀のヨーロッパでは、国家を超える普遍性を持つ宗教(キリスト教)的秩序が瓦解し、近代主権国家からなる国際社会が誕生し...
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