●世界の農業の動向から、日本農業の未来を考える
日本の農業については、さまざまな観点から言われていますが、一つ、言われていない観点があります。
それは、お米のような大規模化すべきものと、ハウスで栽培される野菜や果物あるいは高付加価値の作物とを分けて考えてはどうかという点です。
では世界に目を向けて、最も農業輸出額の大きい国を考えてみましょう。皆さんアメリカと答えますが、それは正解で、アメリカが世界一の農業輸出国です。
では2番目はどこかと聞くと、たいていはアルゼンチンやオーストラリア、フランス等、非常に広大な農地を持つ国が挙げられます。違うのです。ほとんど当たりません。知る人ぞ知る世界第二の農業輸出国は、オランダです。
●オランダ式の高付加価値、アメリカ式の大規模農業
では、オランダは何を作っているのか。一言で言うとトマトであり、その他パプリカなど何種類かの野菜です。
しかしオランダは、あの狭い国土でどのように農作物を作っているのでしょう。答えはハウス栽培です。オランダのトマトは、こんなに小さな根っこから10メートルもの高さに成長します。ハウス内の水耕栽培で巨大なトマトを育てるため、生産性が非常に高くなります。
日本では、お米の収量が1ヘクタールあたり約5トンと言われます。オランダのトマトの生産量は1ヘクタール50トンです。その上、トマトやパプリカなどの野菜は、お米や小麦などの穀物と比べるとずっと高額ですから、高付加価値産業として十分な収益が出るわけです。
アメリカ型の大規模農業でトウモロコシや小麦などの穀物を主に作っていく農業と、高付加価値の野菜や果物を作っていくタイプと、二つに分けると考えやすいと思うのです。
●日本農業の現状を金額ベースの食料自給率で考える
では、現在の日本の農業はどんな状況にあるか。酪農も含んだ農業生産は、全部で8兆円と言われています。そのうちお米は、2兆円に満たない1兆8000~9000億円ほどで、残りは高付加価値の野菜、果物、あるいは酪農製品です。
次に、日本の農業の自給率はどれぐらいなのか。よく40パーセントと言われますが、これはカロリーベースで表した数字です。金額に置き換えるとどうでしょうか。お金での自給率、すなわち農業の全売上のうち、日本で生産されたものの割合はというと、70パーセントを占めます。
当然のことながら、お百姓さんももうけようとしていて、できるだけ高く売れる高付加価値のものを作ろうとする方向に行っているのが分かります。
●国土全体から見るコンパクトシティと農業の行く末
それでは、この後、日本での農業はどうすればいいのでしょうか。
私は、この問題を考えるときに、日本の国土全体をどうするかのイメージを持ったほうがいいと思うのです。1億2000万の人間にとっては狭いと言われる37万平方キロの国土です。
というのは、農業や林業とは全く別方向から、「コンパクトシティ」という考え方が出てきているからです。これは、高齢化が進んでいって、福祉などのサービスをしていくのに、なるべく密度高く集中して住んだほうがサービスの効率がいいという考え方です。
これはある種、正しい考え方ですが、もしコンパクトシティ化が日本中で進むとなると、残りの土地はどうなるのか。ここが重要なポイントになります。
もしも残りの土地を放っておくと、耕作放棄地があちこちにでき、放置された森は荒れ果てて密林になります。これは、やはり日本として目指すところではないと私は思います。
●農業と林業の大規模化で、人は棲み分け可能になる
コンパクトシティという考え方がある一方、最近では古民家を買って地方へ移住する人も出てきました。人にはいろいろな要望があり、自然とともに住みたい人もいるのです。そういう人たちのニーズも満たせるようにしていくためには、国土全体のデザインを考えて、維持していく必要があるでしょう。
そのためには、やはり大規模農業、大規模林業が不可欠です。もちろんこの他に、今申し上げた野菜や果物、酪農などの高付加価値栽培を適切に進める考え方が入ります。すると、最終的にはどんな国土を作っていくのか。
おそらく農業の生産性は今言ったような形で上がっていくだろうし、林業の生産性も上がっていくとすると、あちこちに空いた土地が出てきます。
都心も例外ではありません。人口の減少が進むと、都市の中にも空き地が出てきます。都市の近郊や都心部の空き地でハウス栽培が行われれば、自然と触れ合いたい人たちの欲求を満たせる他、いろいろな有益性が出てきます。
より豊かな自然と一体化して住みたい人は、郊外よりさらに遠隔地での暮らしが可能です。大規模な農業と林業が復活する...