●テンミニッツTVは議論を生むための有効なツールである
小宮山 日本ではなかなか議論ができない。仲間内では議論はできますよ。だけど、このグループを偉くて恥をかきたくないと思っている人ばかりの日本中に広げるのは、難しい。
―― そうか、偉くて、恥かきたくない人ばかりだから。
小宮山 恥をかきたくない。そうした困った人たちが多いんですよ。
―― 議論にならないわけですね。
小宮山 その時にテンミニッツTVというのは、極めて有力なツールになり得ると思います。
―― 「この偉い先生はこう言っている」、だけど、「同じようなジャンルで、この人はこう言っている」、その中で、だんだん自分なりの絵が出てくるわけですね。
●自信がある人は批判を恐れない
小宮山 そうですね。自信がある人というのは、批判を恐れません。批判されても、「なるほど、そういう考えが確かにあるよな、でも本当はこうなんだよな」っていうのがあるわけですよ。それは、「こういう視点で見るから、たしかにそういうふうに思われるかもしれないけど、僕はこういう前提で議論していて」というように思います。
―― 自信があるんですね。
小宮山 自信があるから、受け入れられるのです。だから、テンミニッツTVには、何か言われると怒るような人は入れない。そうすると、そういう中では議論になりますよ。やればいいんですよ。島田晴雄先生(公立大学法人首都大学東京理事長)などは怒らないでしょ。
―― 怒らないですね。彼は、問いに対して自分でさらに考えてきますよね。
小宮山 それが当たり前ですよ。それが議論の意味なのです。
―― 「ずっと学び続けたい」、という欲求を一生持ち続けている人だからですよね。
小宮山 私も怒りませんから、いくら言われてもいい。
●実務家と専門家の間での相互成長
小宮山 というのも、それがあなたも参加していた、EMP(Executive Management Program:東大エグゼクティブ・マネジメントプログラム)です。EMPには、金融や経済に関して、実践的に関わってこられた人たちが、参加していますよね。
こうした人たちは、その分野の専門家である大学の先生よりも、いわゆる実践値や経験値を持っています。いわば大学の先生が持っていないものを持っているのです。大学の若い先生が「あなたそれ違うんじゃないか」、と言われてしまって、しょぼんとしてしまったこともある。しかし、「あなたが来年やってくれたら、もっと良くなる」と励ますと、本当に良くなるんですよ。若い優秀な先生たちですが、やっぱり経験が足りないわけです。先ほど言った中学生と比較するとおかしいかもしれませんが、やはり実践経験が必要なのです。大学の先生は、実践経験をそんなに積むわけにはいかない。だから、そういう人たちとの議論の中でお互い成長するのです。
―― 理論で極めた人と、実践で矢玉に当たってきた人と、一緒にやったら面白い。
小宮山 面白い。
―― そうでしょうね。EMPってそれを意図して、ある程度ワークされているわけですね。
小宮山 そうですよ。そこで「なるほど、最近の理論はそう考えるんですか。だけど、それじゃ、私が経験から考えることと矛盾するんだけど、こういうのはどう考えるんですか」と言うと、言われた先生はそれに対して考えて、進化するわけでしょ。そのプロセスが必要で、今はそれを本当にスピードを上げてやっていくことが必要な時代なんですよね。
―― 大学だけじゃできないし、企業経営者だけじゃできないし、役人だけじゃできないし、それを混ぜないとダメですね。
●縦割りによる弊害を克服するためのテンミニッツTV
小宮山 本当にそうですよ。特に、日本をここまで本当に支えてきた官僚ですよね。彼らはいろいろ言われながらも、「俺たちがなんとか日本を引っ張っているんだ」という、矜持がある人たちです。「国のために、俺はやっているんだ」、という思いでやってきた人たちが、「もうやっていられない」、となってしまいます。ここのところは、心配ですよ。だけど、例えば、こういうテンミニッツTVみたいなところで、ぜひ実践知、あるいは違う分野の知、というのに触れていただいて、役人はもともと優秀な人たちが多いですから、勉強してもらえれば、それでまた新しく元気が出てくればいいな、と思いますけどね。
―― 日本の霞ヶ関文化は、さっきの先生のおっしゃった「造反有理」の考え方じゃないけど、壊してしまうと、国を動かす仕組みがなくなってしまいますよね。その部分を改善する、あるいは、もう1つ外に別のものを作る、ということはいいんですけど、今みたいなことをやっていると、国家の運営者がいなくなってしまいますよね。
小宮山 だからこれも、壊すようなものではない。だけど、問題はやっぱり「縦割り」なんで...