●朝鮮半島の問題は、中露関係と関連している
―― 安全保障の話で、今、米中の話をいただきましたけれども、もう一方の問題として、朝鮮半島ですね、アメリカと中国の関係というのは、ある意味ではさっき先生がおっしゃったように、大国同士の関係で、もう戦争ができない関係性になるという講義でございましたが、逆に何かが起きるとすると、たとえば朝鮮半島のような場所であったり、台湾海峡かもしれない。日本としては、そういう地域的な安全保障の危機にも備えなければいけない。そういう意味で言うと、今、非常に韓国が、どう動くのかも非常に危ないように見受けられるところもありますし、北朝鮮も今、米朝の首脳会談も重ねてはいますが、最終的にどっちに向かうのかが、なかなかよく分からない。そこにロシアの思惑なども絡んでくる。こういう状況で、長期的というより、短期的ないし中期的に見た場合に、朝鮮半島は今後どうなっていくのか。ある意味では、朝鮮半島とくに韓国がすでに中国のサイドなり、北朝鮮のサイドで動いてしまって、今の38度線が、対馬海峡まで来るのではないかという危機分析はずっと中西先生がしてこられましたけれども、ますますそれに近いような、先生の予言通りのような状況になりつつあります。ここはこれから、どのように見ていけば良いでしょうか。
中西 日本としては決して嬉しい予言ではありませんが、的中しました。私が「対馬海峡が38度線になる日」という論文を書いたのは、2003年の『VOICE』という月刊雑誌の3月号です。もう十数年前の話なのですが、これによって、いまだに大きな構図を理解することができます。
どういうことかと言うと、朝鮮半島はやはり大陸なのだということです。とくに2000年代に入ると、ロシアはプーチン体制で、中国は江沢民時代に経済の基礎固めが成功し、両方ともが大陸国家として非常に接近し始めました。今では70年代の中ソ対立以来、かつてないほどの中露の大接近が起こっています。この傾向はすでに2000年代の初めから見えていました。
●アメリカは中露関係を考慮しなければならない
中西 最近になり、日本の識者の中には米中露関係について、次のような議論をする人がいます。「今、米中対立が激しくなっているが、そこにおいてアメリカにとって中国は、米ソ冷戦の際のソ連と同じような位置づけになっているのだ。だからこれは米中新冷戦と理解すべきだ」というものです。しかしこの見解は大きく間違っています。そもそもなぜアメリカがソ連との冷戦に勝利したかという理由をしっかり考えれば、いちばん大事な1つの補助線が見えるのです。アメリカが勝ったのは、中ソが対立した際アメリカが中国のほうに肩入れをしたことでバランス・オブ・パワーが崩れ、ソ連が徹底的に不利になったからです。つまり中ソ対立があったからこそ、アメリカは冷戦に勝てたわけです。
今回も同じです。アメリカがもう1回、中露を抑え込んで、冷戦終結直後のような唯一の超大国としての安定した勢力と秩序を作るためには、中露を分断するしかありません。中露も現在ではプーチン・習近平体制で、彼らは戦略的学習能力にはすごく長(た)けています。「なぜ、われわれは崩壊したか。なぜ冷戦に敗北したか。それは、われわれが対立したからだ。われわれの永遠の敵はアメリカだ」と。だから、米中対立が深まれば深まるほど、中露は固く結びつきます。ですから、アメリカにとっては中国だけを敵にしているように見えて、ロシアは絶対にアメリカの側には来ないわけです。なぜなら、ロシアには対米関係をめぐってものすごく強いトラウマがあるからです。アメリカに接近したらロシアは潰される。それはゴルバチョフの教訓です。また、アメリカと和解できると思ったら、NATOの東への拡大やミサイル防衛、カラー革命など、さまざまなことをやられてしまった。アメリカを信用してしまうとロシアの破滅につながるということが、1990年代から2000年代にかけてのこうした経験によって刷り込まれてしまったのでしょう。
●世界の「3つのバランス構造」を頭に入れよ
―― とくにプーチンはその当事者ですね。
中西 当事者ですね。ですから、はっきり言える「3つの世界の大きなバランス構造」をしっかり頭においておけば、世界情勢の大状況の分析は非常に分かりやすくなります。
第1は、今、申しあげた通り、中露は決して離れない。
第2に、米露の対立はなくならない。
米露は必ず対立を続けると思います。そこにおいて重要なのは、ヨーロッパ、すなわちNATO諸国の存在です。NATOという支えがなくなれば、世界秩序は大きく流動化します。他方で、アメリカとロシアが画期的な接近をしたら、NATOの存在理由はなくなります。それでなくとも現状では、トルコは離れ、東ヨーロッパ諸国ではもうファシズム...