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多国間の安全保障システムを日本が構想せよ

国際情勢における日本の安全保障(4)日米韓の崩れ

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
これまで東アジアの安全保障は「日米韓」の三カ国の枠組みが基軸であったが、もはやそれは維持できまい。となれば、日本が主導するかたちで、多国間の安全保障システムを築いていくしかない。同時に、日本は防衛力やインテリジェンス能力も高める必要がある。そのためにも、経済力・財政力が不可欠なのである。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:08:55
収録日:2019/06/28
追加日:2019/09/11
カテゴリー:
≪全文≫

●韓国というパラメーターは、もう捨象するしかない


―― そういうなかで日本として、安全保障的な備えをどうしていくかということですが、これまでは当然、日米韓の三カ国の枠組みでやってきたわけですが、そこも、いままでの軸が崩れつつあります。そういうなかで、今後どのような体制をつくっていけば良いのでしょうか。

中西 外交問題としてははっきりしています。まず、韓国というパラメーターは、もう捨象(しゃしょう)しなければなりません。懸案は懸案として、実務問題として解決していくしかないし、韓国は韓国の道を行き、日本は日本の道を行くという形です。それ以上でもそれ以下でもないという、このドライさと割り切りが一番求められているのでしょう。

 安全保障で言えば、やっぱりいちばん厄介なのは韓国の反日的な風潮です。これが進行しており、対日安全保障こそが韓国の防衛政策の一番の柱であるともみなされています。そのため、韓国では(海上自衛隊の)「いずも」よりも相当大きな航空母艦を建造する計画が表面化してきています。韓国としては、5年内には、今、済州島に建設中の海軍基地がありますが、そこに中国海軍が常時寄港できるようにする構想まであるわけです。もちろんこのことはアメリカが認めないので、米韓同盟がその際、どうなっているかにもよりますが。

 いずれにしても、現場では対馬海峡に恒常的に中国海軍の艦船が通行しています。ですから、われわれとしては古い形の安全保障観念を持っていても、神経衰弱になります。なぜなら、沖縄本島と宮古島の間を結んでいる宮古海峡には、「遼寧」という中国の空母が平気で行ったり来たりしているからです。これについてはもう、「また来たか」と慣れるしかありません。一応、スクランブルしながら追跡し、写真は全部撮る。それが日常と思わなければなりません。しかし、日本海の方に入ってくると少しびっくりします。これはなかなか慣れることが難しいと思います。


●新しい安全保障システムの構築と防衛力の強化


 しかし、今お話しした文脈で言うと、やはり韓国が在韓米軍を置いたまま中国の勢力圏になっていくということです。対馬海峡において中国海軍がアメリカ海軍第7艦隊とすれ違いながら、第7艦隊は南へ行く、中国海軍の艦艇は日本海へ向かって北へ行くという状況になったときに起こりうることは何か。まさか、日本海海戦が起こるわけではありません。しかし、10年単位という非常に長期的に言えば、こうした交錯した軍事関係が現実になってきた時には、必ず、大きな多国間の地域安全保障機構ができなければ、このようなことは整理できません。この整理をどうするか、ということで地域の安保機構をつくらざるをえなくなり、アメリカもいずれ、こうした考え方に下りてこざるを得ないでしょう。

 その時はポスト・トランプ政権でしょうけれども、やはりアメリカが安全保障に負う負担の問題がいま以上に大きな問題になっていることが予想できます。

―― 「安保ただ乗り論」がまた強まってしまうのでしょうか。

中西 もっと強まっているでしょう。ですが、アメリカがすっかり引き揚げてしまうと、大変なことになるので、そうした際にアメリカが、より安定的な形でアジアにプレゼンスを持ち続ける枠組みを用意する必要があります。日本やアメリカの他の同盟国の側で、その受け皿を考えなければなりません。

 ちょうど日本の戦後の占領が終わるとき、「日米安保体制という形で在日米軍基地を置いてください」というかたちで受け皿を日本から申し出て、吉田(茂)政権がアメリカ政府にこのアイデアを打ったわけです。もちろん、その前にはアメリカからの働きかけがあったと思いますが。ですから、そういう形でクリエイティブに2030年代を目指して、新しい安保システムを考えざるをえません。非常にいい材料です。

―― 一面では、そのような多国間の安保システムをどう構築するか。もう一面では、アメリカが長期的には退いていき、安保ただ乗り論で「日本よもっと負担せよ」という圧力が強まることを見越して、逆に日本の防衛力をどう高めていくかというところですね。

中西 そうです。先ほど申し上げた、いわゆる国力の涵養という、令和の時代の第1国策がこれに関わります。プライオリティー・ナンバーワンです。それは経済と財政です。これらが一番重要なカギを握っているのです。いかに安全保障上、防衛力の向上が必要であっても、ない袖は振れません。やはり経済力や財政力の裏打ちが何より必要です。こういう現実に立ち戻らなければならないのです。


●経済力があってこそ「国力」を上げていける


―― 国防力と、経済力ですね。要するに、すべてのバランスを取っていく必要があります。経済力が上がって初めて国防力も拡充できるということですね。
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