●「中国経済はもう終わり」は浅見。日本の戦後史に学べ
── 丹羽前中国大使は、伊藤忠商事株式会社を代表取締役社長として再建し、取締役会長・相談役を務められ、伊藤忠時代に何度も中国に足を運び、6大商社の中で一番大きい投資のポジションを採られました。そして初の民間出身駐中国大使になられ、おそらく歴代の大使で初めて、数字で照合するかたちで改革開放の中国と戦後復興の日本を比較して、「今の中国は1955年から1973年の日本の戦後復興と同様の段階であり、そう簡単に中国のバブルは崩壊しない」という主旨のことを語られています。このあたりからお話をお聞かせいただければと思います。
丹羽 中国の約30年間(改革開放後の1978年~2010年)の経済成長率(実質GDP成長率)は平均10パーセントでした。これが最近9パーセント、8パーセント、7.4パーセント(2014年上半期)となって、今はもう早晩6パーセント程度までいくのではないか、中国経済もいよいよ終わりかというような論調が、今、日本の国内で、メディアをはじめ、学者の中にも出てきました。しかし「ちょっと待ちなさい」と私は言いたい。そういうことを言っている人は、もう少し日本の経済を学ぶべきでしょう。そのうえで、中国だけがなぜそうなるのかということを考えなければいけないと思います。
中国は日本よりも大きいですから、日本の通りにはいかないにしても、大きいということは深いし、広いのです。ですから、中国の場合、もし成長率が10パーセントから8パーセント、あるいは7パーセントになるとして、それは日本ほど急激ではありません。なぜなら、西に非常に深いし、沿岸も広いですから、もっとじわじわとした動向になります。日本で15年間続いたものであれば30年ぐらいは続くのではないか。一度、そういう目で日本の経済を見てみたらいいのです。
●今の中国は40年前の日本。しかも規模が桁違い
丹羽 私はもともと資本主義の発展段階説という立場を採っていますので、その観点から、ある仮説を立てました。つまり、経済は最初のうち急速な勢いで成長するが、途中から市場経済に移行し市場の中心が輸出産業から国内産業になってくると、経済成長は非常に落ち着いて安定する。経済規模は大きくなるが、成長率は輸出中心の時代ほど急激ではなくなるだろう。このような仮説です。その仮説をもって中国経済を分析してみると、その通りの結果が出てきたわけです。それが私のこの表です。
日本の1955年~73年は、中国の改革開放後、1978年~2010年頃までの時期とちょうど合っています。初期の急激な成長の期間が、日本は18年、中国は30年から35年。それだけ市場が広くて深いということになるのです。
── 大国ですからね。
丹羽 では、その次に日本はどうなったか。1973年~90年の経済の成長は、前の18年間の半分以下である。しかしながら、経済の規模は、どっと大きくなっています。これが日本の実例です。
では、中国の今後はといいますと、中国はちょうど約40年前の日本と同じですから、40年前というと1972、3年頃です。そうすると、中国の経済はおそらくかつての日本と同じように進むと考えると、これから30年間、成長率は半分ぐらいになるのではないか。とすると、次の30年では、今まで平均10パーセントだった成長率が、7パーセント、6パーセントとなり、平均すれば5パーセントぐらいになるのではないか。それでも経済は何倍にもふくらむのだ、と。
ですから、成長率7パーセント台は高いのです。6パーセントになってもまだ高いです。なぜならば、今の先進国の経済成長は1パーセントから3パーセントです。そのときに、GDP世界第2位、先進国並みの中国が、まだ7.4パーセントの成長率だなどと、これはとんでもなく高すぎる成長率なのです。
こんな高い成長率を続けてはいけません。これでは早く終わってしまうかもしれません。もっと継続して、幅広く、深く成長するためには、多分5~6パーセントに落ち着かせなければいけない。ということを今、私が言っているのです。7.6、7.5パーセントではまだ高すぎます。だから、来年は6パーセントぐらいになってもいいのではないでしょうか。それでも先進国の中ではダントツに高い成長率になります。
ですから、それを日本の先生方が、「中国は経済成長率が10パーセントから7.5や6になったから、もう中国の経済はこれから衰退する」と言うのを聞くと、「もう少し勉強して言ってほしい」と言いたくなるというわけです。
●2020年、中国経済がアメリカを抜く日
── 先生のこの表で驚いたのが、日本の高度経済成長が終わった1973年~90年の経済規模の数字です。実質成長率が...