テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

佐高信も飛び上がった石橋湛山の「死もまた社会奉仕」

失われている「保守の知恵」~友好の井戸を掘った人たち(3)石橋湛山

佐高信
評論家
情報・テキスト
近代日本人の肖像
失われている「保守の知恵」を探る本編シリーズ第3話は、ジャーナリスト出身の民権派・石橋湛山。辛口評論家と呼ばれる話者も舌を巻くほどの痛烈な言論を展開し、経済的視点を入れた「小日本主義」を唱え、暮らしの哲学を重視する湛山の知恵を追いながら、昨今、拡大主義に傾斜する日本に警鐘を鳴らす。
時間:14:28
収録日:2014/01/22
追加日:2014/02/24
カテゴリー:
タグ:
キーワード:

●自民党を二度除名された民権派の石橋湛山


 次に、「失われた保守の知恵」ということで、石橋湛山という人の思想が、完全に忘れ去られている。

 私は、石橋湛山の考え方というのは、日本の大きな知的財産だとまで思っていて、石橋湛山についての評伝を書いた。『湛山除名』というタイトルで書きまして、いま岩波現代文庫に入っている。石橋湛山の孫弟子を、田中秀征という人は自認しているわけです。田中秀征の考え方と石橋湛山の考え方を、出処進退のようなものをダブらせながら、『湛山除名』というタイトルで書いた。

 なぜ『湛山除名』というタイトルにしたかと言うと、実際に湛山は、二度も自民党から除名されているのです。つまり、国権派と民権派の流れということを申し上げましたけども、国権派の流れからすれば、民権派というのは、いわば獅子身中の虫というようにも映るわけです。共産主義を許容する容共派というような人たちだと。反共産主義の国権派から見れば、とんでもないというように見える。


●言論で世に訴えた石橋湛山の小日本主義


 石橋湛山という人も、またジャーナリストの出身。東洋経済新報社、現在も残る東洋経済で、『週刊東洋経済』によって言論で世に訴えていた人。この人の評伝を書くときに、私がやはり石橋湛山の言論の中で一番すごいなと思ったのは、元老の山縣有朋という、いわばさまざまな老害の政治を続けた人ですが、その山縣有朋が亡くなったときに、石橋湛山は、「死もまた社会奉仕」という痛烈な文章を書いたわけです。「死ぬこともまた社会奉仕だ」と。「山縣有朋のような人間が亡くなることは、いわば社会のためにいいのだ」というようなことを書いた。一応私も辛口評論家だとか言われますけれども、そこまでは書けないと、飛び上がったような覚えがある。「死もまた社会奉仕」だと。

 石橋湛山という人は、あの軍国主義、軍部が大きな力を持っていたときに、軍部批判の文章を書き続けた。大日本主義の幻想というのは、つまりは大日本帝国の幻想ということです。 石橋湛山の主張というのは、「小日本主義」というふうに言われますけれども、小日本主義というのは、別に小さければいいという話ではなくて、軍備を持って領土を拡大することにエネルギーを使うべきではない。そうではなくて、いわゆる貿易とか商売、それを友好的にやるほうがずっと安上がり、無駄遣いではないのだという経済の視点をきちっと入れた考え方なのです。そういう考え方で、大日本主義の幻想、小日本主義というのを唱えている。

 だから、私は『良日本主義の政治家』と、最初に東洋経済から出すときはそういうタイトルにした。田中秀征さんは、「質日本主義」と言っていますけれども、同じような考え方です。それから、田中秀征さんとともに新党さきがけを作った武村正義は、「小さくともきらりと光る国・日本」。つまり、そういう湛山の考え方。私は、湛山ほどリベラリストの本領を発揮した人はいないと思う。

 それで、私がその『良日本主義…』を書いたときに、ここの講座でお話していた 若宮啓文さんが宮澤喜一さんの信頼が厚い記者で、私も若宮さんと親交あるわけで、若宮さんから、宮澤さんのところに本を送ってくれと言われたのです。宮澤さんが湛山に並々ならぬ関心を持っているから、本を送ってくれと言われて、私が拙著を送ったら、宮澤さんの独特の流麗な字で返事が届いて、それだけではなくて、宮澤さんからお呼びがかかって、赤坂の重箱で若宮さんと一緒にうなぎをご馳走になるという栄に浴したわけです。


●石橋湛山か石原莞爾かという問題設定


 石橋湛山という人は、池田勇人をかわいがったのです。そして、池田が重用したのが、田中角栄、大平で、宮澤と、こう続く流れというのもある。

 それで、今びっくりするのは、私がその本を書いた頃ですけれども、石原莞爾か石橋湛山かという問題設定が可能であるという座談会が、文芸春秋に載った。

 そこには、都知事失格者の猪瀬直樹とか、保守評論家の福田和也とか、あるいは秦郁彦さんなどが出ていたのです。つまり、石原莞爾という人は、私残念ながら同郷で石原莞爾の評伝も後に書くわけですけども、いわば旧満州での拡大主義、その石原莞爾的考え方から見ると、石橋湛山の考え方はもう成り立たないのだということを、彼らがその中で言っている。猪瀬という人は、今はあまり省みる必要もないかもしれませんけれども、戦争というのは究極の公共事業だと、とんでもないことを言っているのです。そういう考え方ではなくて、石原莞爾という人は相変わらず変な影響力、人気があるのですが、 石原莞爾か石橋湛山か、残念ながら今日本は、石原莞爾の道を再び歩もうとしている。

 そこで、石橋湛山のいぶし銀のような知恵というのは、捨て去られようとしているのです...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。