10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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Jカーブ効果における為替のタイムラグも輸出に関連

円安が進んでいるのになぜ輸出が増えないのか?

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
アベノミクスの効果による円安の進行により、輸出が増えるという期待を皆が抱いた。ところが、輸出は思ったほど増えず、現状は期待通りにはいっていない。円安が進んでいるのに、なぜ輸出が増えないのか?伊藤元重氏がその要因と重要なポイントを解説する。
時間:12:28
収録日:2014/09/08
追加日:2014/09/15
ジャンル:
≪全文≫

●輸出はさまざまなファクターに依存している


 アベノミクスの中で円安が非常に進んでいて、それが日本の輸出を増やしてくれるのではないかという期待感が非常に強かったのです。日本の輸出が増えていけば、それがけん引し、外需主導の景気の拡大もかなり期待できます。それから、いわゆる原発事故によって、海外から大量の天然ガス、石油を輸入しなければいけない日本は今、大幅な貿易赤字に陥っていますが、輸出が増えていけば、こうした問題にもそれなりの修正が働くのではないかと、このような期待を皆が持っていたのでしょう。

 しかし残念ながら、これまでの動きを見ると、日本の輸出は思ったほど増えてはいませんし、期待通りの動きにもなっていません。これをどのように考えたらいいのでしょうか。これにはやはりいろいろな視点があるのだろうと思います。

 結論から申し上げれば、輸出はいろいろなファクターに依存しています。あとから申し上げるように、円安、円高という為替にも当然響いてきますし、それ以外にも、海外の景気が悪ければ、日本からの輸出、海外から見れば輸入ですが、ここには当然、非常にマイナスの影響が出てきます。それに加えて、輸出主体である日本の企業が、仮に海外にどんどん設備や工場を展開していると、輸出を急に増やすことはなかなか難しいということだろうと思うのです。なかなか輸出は増えないだろうし、今後も増えないだろうという悲観論の中の多くは、この三つ目の要因を指摘する人が多いのです。それだけ海外で設備投資が出てきているので、自動車やエレクトロニクスに象徴されるように、海外で競争力や生産能力をすでに持ってしまうと、多少為替が動いたからといって、日本で生産を増やして輸出を増やすというようにはならないだろうという議論が出てくるのです。

 これは多分、一部は正しいのだろうと思います。そのような意味での海外生産がすでに定着しているということが、日本の輸出が伸びない大きな背景にあることは事実だと思います。


●日本の産業構造の転換で、中間財・資本財・素材の輸出が増える


 ただ、この議論に多少疑問を感じざるを得ないのは、いくつか重要なポイントを見落としているからです。その一つとしては、日本の産業構造は変わっていくということです。例えば、過去50年の日本の輸出の中身を見ても、かつては繊維が輸出されていったのが、いつの間にか鉄や造船のようなものに変わり、石油ショック後はエレクトロニクスで、いわゆる「軽薄短小」と呼ばれているような産業が出ていって、そして、1980年代後半から自動車が大変な勢いで輸出されていきました。時代によって経済構造の変化を受けて輸出のプレーヤーは変わっていくので、今の日本が抱えている状態とは、この大きな産業構造の転換の時期にあるのだろうと思います。

 従って、これまで日本の輸出の主役であった自動車や、あるいはそのエレクトロニクスのようなものは、海外生産でどんどん増えていきますが、もし、これと違うものが日本から海外に輸出で出ていくということが起こるとすると、中長期的に日本の輸出は、今の為替のレベルで見れば、相当増えていくのではないでしょうか。

 これから輸出が増えていくと私が考えている分野は、二つ大きなものがあります。一つは、中間財や、あるいは、素材や資本財です。自動車は中国で生産が増えているかもしれませんが、その中国で自動車を組み立てるために使われているロボットは、日本から輸出されています。あるいは、自動車の部品を...
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