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アメリカの伝統的な「二重封じ込め」政策の再現

「イスラム国」米イラク空爆~六つの背景とシリア情勢への対応~(後編)

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
イスラム国に対する米軍のイラク空爆開始からはや1カ月、事態は長期化の様相も呈し、出口が見えない。米欧、特にアメリカが軍事攻撃に打って出た六つの背景と、シリア情勢への対応について、山内昌之氏が鋭く分析する。(後編)
時間:14:33
収録日:2014/09/18
追加日:2014/09/25
ジャンル:
≪全文≫

●背景その4:「自分たちこそスンナ派アラブの代表」という主張


4番目に注意しておきたいことは、このようなイスラム国が、自分たちこそスンナ(スンニ)派のアラブやアラブナショナリズムのあたかも代表であるかのように主張していることです。自分たちこそスンナ派アラブとイスラムの正統的継承者として、カリフを名乗り、カリフ国家をつくるという議論です。

ところが、このイスラム国は、北イラクを占領したときに、トルコの外交官たちを40数名拘束し、彼らを監禁したままです。トルコは、このイスラム国に対して比較的柔軟な態度を採ってきましたが、そういうことにはお構いなく、このスンナ派のカリフ国は、長い間スンナ派のカリフを持ち、オスマン帝国の伝統も持ち、今でもスンナ派に属しているイスラム共同体の重要な国の一つであるトルコを脅かしたという事実があります。

こうした点で、イスラム国の「自分たちこそスンナ派アラブの代表だ」というような主張は、トルコに限らず、アラブの国々にとって、大変不愉快だろうと思います。このようなポーズをとっていくイスラム国の存在に対して、国際世論やイスラム、中東の世論はもとより、アメリカもそれを不愉快と思うという情勢になっているのです。


●背景その5:「徹底した全体主義」を何とかするために動かざるを得なかった


第5番目に、こうしたイスラム国とは、どのような国であり体制なのかというと、あるパレスチナ系アメリカ人は「徹底した全体主義」「完全な全体主義」だと、このような表現をしています。


すなわち、イスラム国という集団にして国家は、ヨーロッパが第1次世界大戦後に確定した経済や政治、地理上の境界を無視しようとしている。この現実に対して、アメリカやイギリス、フランスをはじめ西欧の国々は不快感を持っている。のみならず、このように無視している現実の中で、シリアとイラクの国境が事実上、今消え去っている。そして、イスラム法を最も教条的、かつ、厳格に解釈することにより、イスラムに規定されている、手首を切るとか、あるいは、石投げで人々を死に追い込むといったような7世紀の固定された刑罰などを導入することによって、イスラムを彼らの言うところのカリフ国家として21世紀に実現していこうというような行為が見えてきているのです。

ヨーロッパやアメリカの指導者は、こういう現実を見て、しかも、そこでキリスト教徒などの少数派に対する迫害を見て、遅ればせながら「これは干渉しないと具合が悪い」と決意しているということになります。

イスラム国の悪夢のような、まさにこの世のものと思えない残虐行為は、驚くほどであります。例えば、北イラクにおけるヤズィード派に対する彼らの態度、対応は、ジェノサイド、いわゆる皆殺し、集団殺戮と言ってもいいものがありますし、イラクとシリアのキリスト教徒の共同体、カルデア派や、あるいは、アシリアンと呼ばれるような共同体に対するすこぶる粗野な迫害も目立つ点であります。イスラムへの強制改宗を迫っていくこと、あるいは、テレビにも時々出てくる、非常に忌まわしい、首を切っていくというような断頭の刑。それから、テレビで見る機会は当然ないのですが、磔にする刑である磔刑。きっと、キリスト教徒だということで、こういう磔刑を考えたのかもしれません。こういう磔刑や、それから、女性に対するレイプ。特に、非イスラム教徒のヤズィードやキリスト教徒の女性に対するレイプのみならず、彼女たちを奴隷として売り払っていくといったような行...
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