●脳波に反応して動くロボット「HAL」の可能性
── 日本の高齢化について、「高齢化はマイナスではなく、新しいチャンスだ」というお話がありました。具体的にはどのようなチャンスなのでしょうか。
小宮山 すばらしい質問ですね。いろいろなチャンスがあると思いますが、例えば、「ものを売る」という観点から話しましょう。
〝HAL(Hybrid Assistive Limb)〟というロボットを知っていますか? 最近テレビでもよく取り上げられる筑波大学の山海嘉之先生が、確か7、8年前にロボットのベンチャーをつくりました。それが今、非常に成功し始めています。
このHALというロボットは、今リハビリなどに使えるようになっています。例えば、脳溢血などの後遺症で足の動きが不自由になり、リハビリをしている人がいますが、HALはサポーターのようなフォルムのロボットスーツで、本人が体を動かそうと思うと、これが力をくれるのです。
リハビリというものは、実際に歩いて、その歩くという運動の練習の情報が脳に送られて初めて訓練になるのです。「歩けない」と考えると、これではリハビリにならないのです。
それはどういうことかというと、人間が頭で考えるときに何が起きているかというと、脳の中にニューロンという脳細胞があり、ここからピッピッピッピッと電流のパルスが出ています。例えば「歩きたい」ということなら、ここから出た電流のパルスが、神経を伝って足の方に行きます。そして、実際の筋肉を動かす部分まで行って、もう一本の神経を伝って戻ってきます。人間の体というものは、「行って、戻ってくる」という電気回路ができているのです、脳が考える、電流パルスが出る、それが神経を伝っていって、そして戻ってくる。こういう回路がものすごくたくさんできていて、それによって人間は歩くことができるのです。
では、HALはどうなっているのかというと、その電流をどこかで検知すれば、「この人は歩きたいのだ」ということが分かります。そこで、HALは漏れ電流を測っているわけです。電流は流れていますから、ごく微弱ですが体の表面に電流が漏れてきます。それを非常に高感度なセンサーで測っています。すると、「この人がこう歩きたいのだ」ということが分かります。そこでモーターが回って力をくれる。こういう原理なのです。
●介護、介助への応用で、大規模な新産業が生まれる
今はリハビリなどに使われていますが、いろいろなことに応用できてくると思います。というのは、今言ったような構造ですから、どこで測ってもいいわけです。どこかで測ればいいのですから。
先日、おもちゃが売り出されているというので買いました。どういうものかというと、測定器を2点に貼って精神集中します。うまく精神集中していると、小さなヘリコプターのプロペラが回って、飛ぶのです。これは面白いですよ。
これは脳波を測っているわけです。先述のように、体内を電流がピッピッピッピッピッと流れていて、それは体表にいろいろな電磁波としても出てきます。測定器がそれを感知すると、おもちゃのヘリコプターがバーッと動くという構造になっているのです。
何が言いたいかというと、人間はものを考えられる限り、考えて電流パルスが出ている限り、それを検知して、そしてうまい仕組みと組み合わせることで、自立できるということなのです。トイレに行くのに人の手を借りる必要はなくなる。食事を人に食べさせてもらう必要はなく、自分で食べることができるように必ずなる。ですから、これは膨大な産業になりますよね。
人間というものは、やはり頭脳が生きている限り自分でやりたいと思うことが随分とあります。その典型的な例がトイレに行くということだし、お風呂に入るということだし、食事をするというようなことでしょう。それが、意識がある限り自立できる社会がつくれるということです。実際、そうなると思います。
このようなものは膨大な産業であって、本当のチャンスと言えるでしょう。他にもたくさんあると思いますけれども。