●化学業界にも「モノからコトへ」の意識が必要
小林 では、他のインダストリーはどうなのか。ケミストリーは僕が一番関連している業界ですが、やはり化学も「モノからコトへ」の意識を一定程度持たなければ、ただつくっているだけでは差がつかなくなってしまったと言えるでしょう。
「コト」も、「モノ」として見れば最終的には「モノ」でしかないのですが、その「コト」をつくるところにICTを一つ噛ませる。それが、ドイツでいう「インダストリー4.0(第4の産業革命)」、あるいは「インターネット・オブ・シングス(IOT)」と呼ばれるものですが、プロキュア(購買)に始まりマーケットに出す販売チャネルまでの工程を、どういう形でシステム化するのかが問われるし、必要になると思います。
●「コモディティ化」の波~ポリエステルの原料・テレフタル酸をめぐる攻防
小林 それと、やはり「コモディティ化」ですね。コンシューマー・エレクトロニクスが完全にコモディティ化してしまったことも、先ほどの解析で、一つの原因として挙げましたが。
―― 本当にコモディティ化しましたね。
小林 中国ではもはや太陽電池でさえ、あっという間にコモディティ化してしまうのです。これは、ケミカルも同じです。リーマン・ショックの後、政府が民間に50~60兆円のお金を注ぎ込み、その中のかなりの部分が鉄鋼とケミカルの増産に回され、コモディティ・ケミカルに投資されました。資金投下は2009年ですが、工場をつくったりする準備に3年ぐらいはかかります。ということで、2012年ぐらいからどっと関連製品が出てきたのです。
ものにもよりますが、当社が中国やインドでも展開しているテレフタル酸という、ポリエステル繊維やポリエステルフィルムの原料があります。テレフタル酸という有機酸とエチレングリコールという2価のアルコールでポリエステルができるのです。
このポリエステルは、繊維の中ではまだまだ「王様」と言われていて、世界需要が今も5パーセントから6パーセントは伸び続けています。また、ポリエステルフィルムなども、プラスチックとして非常に応用性のある素材です。しかし、その原料としてのテレフタル酸自体の触媒や触媒プロセスについては、欧米の企業はデュポンを含めて撤退しました。むしろ中国やインドに、その技術を教えたのです。
そういう技術の差異化ができないものを、僕たちは「まだ海外ならいけるだろう」と思ってやってきました。ところが、先ほどの話ではありませんが、中国のオーバーサプライによって、あっという間にインド・マーケットをはじめインドネシアも韓国も皆、大変な状況になってしまいました。当社の場合は「どうせ、もう日本は駄目だろう」と、一足早く4、5年前に決断を下し、3年ほど前にクローズしていました。
―― あの決断は、大きかったですよね。
小林 松山工場ですね。続けていたらもっと痛手をこうむったところですから、日本の場合、その辺りはよかったですし、インドネシアやインドは、エリアごとにデューティなりアンチダンピング関税の政策が入ってきていますので、何とか救えます。ですが、中国で投資した500~600億の事業が結構苦戦してしまっているのをどうするのかが、大きな課題になっています。
●三大繊維の原料全てに中国のオーバーサプライが影響
―― 中国のオーバーサプライは半端ではないのですね。
小林 生半可ではないです。鉄もそこで悩んでいますし、化学でも今言ったテレフタル酸の他、カプロラクタムというナイロンの原料もそうです。アクリロニトリルなどのアクリル繊維も今後はそうなってきます。つまり、ポリエステル、ナイロン、アクリルという三大繊維の原料全てに、中国がつくっているオーバーサプライ状況が影響してくるのです。
しかし、彼らにも言い分はあります。例えばシノペック(中国石油化工業団)の総裁などに聞くと、「お前たちはオーバーサプライだと騒いでいるが、そうは言っても中国人民の需要に対して、中国人民のつくった工場の供給能力はまだまだ超過しているとは言えない」と言うのです。まるで「外国から輸出してくることがおかしいのではないか」という論法です。ですから、その辺りの投資が止まるとは、まだまだ思えません。
●上流はプロセスや技術で優位性、下流は「グリーン」「ライフ」の戦略で
小林 ケミカルには、上流から下流まで非常に多くの業種があります。上流では、今言ったようなコモディティ化したものは、プロセスや、あるいは触媒の技術で相当のアドバンテージをつける必要があります。世界シェア1位かせいぜい2位でなければ、もう手を出しても火傷するだけだから止めろと言われます。明らかに、そのような経営戦略を採るべきだと思いますね。
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