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国家安全保障の戦略策定における重要なこととは?

わが国の安全保障の構造(2)垂直・水平、二方向の展開

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
わが国初の国家安全保障戦略が昨年末に策定された。この戦略文書をもとに、日本の防衛計画が動いているのだ。海上自衛隊海将として日本の防衛に尽くしてきた吉田正紀氏が、戦略の基本構造、戦略策定にあたる指揮官に必要な素養などについて解説する。(後編)
時間:04:52
収録日:2014/08/01
追加日:2014/12/08
ジャンル:
≪全文≫

●国家安全保障条約の垂直展開と水平展開


 昨年末に、わが国初の国家安全保障戦略が策定されました。国家安全保障戦略は、わが国の国益を長期的視点から見定めた上で、外交政策や防衛政策を中心とした国家安全保障の基本方針で、おおむね10年程度の期間を念頭に置いた、わが国の戦略文書としては最上位の文書であります。

 これに基づき、防衛計画の大綱が、これもおおむね10年程度の期間を念頭に、防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を示し、この大綱に基づき、中期防衛力整備計画が、5カ年の経費の総額と使用装備の数量を明示し、中期防に基づき年度予算が組まれ、これによって初めて現場に、その活動に必要な人、物、お金が充足されるという流れになってきます。

 一方、こうした上から下へという垂直展開に加えて、安全保障戦略で重要なことは、外交、経済、科学技術といった他の分野との連携であります。すなわち、これは水平展開と呼べるものであり、今回の国家安全保障戦略ではこの部分に関しましてこのように書かれております。

 「経済力、技術力の強化に加え、外交力、防衛力等を強化し、国家安全保障戦略上の我が国の強靭性を高めることは、アジア太平洋地域をはじめとする国際社会の平和と安定につながるものである。これは、本戦略における戦略的アプローチの中核をなす」と表現しております。


●戦略策定に重要なのは、垂直レベル・水平レベル双方の調和


 実は、この考え方はわが国独自というよりも、国際的な目で見た場合、戦略論的には極めてスタンダードなアプローチであります。

 例えば、米国のエドワード・ルトワックという有名な戦略家がおられます。彼は、戦略のレベルには垂直方向として下層から技術、その上に戦術、作戦、戦域戦略―戦域戦略というのは、地域戦略といってもいいようなものです―そして、最後に大戦略の五つのレベルがあり、戦域戦略レベル以上は、政治、外交、経済、インテリジェンス、こういった他の分野、水平方向の広がりを持つとしております。

 そして、ルトワックは、戦略の策定には垂直レベルと水平レベルの調和が重要であり、戦略の究極的目的は、大戦略レベルで初めて達成されるとしております。

 さらに彼はその失敗例として、本来垂直レベルである軍部が水平レベルに過剰に口を出したことによって敗戦を迎えた、太平洋戦争における日本と、逆に水平レベルが軍事作戦に過剰な関与をすることによって勝つことができなかった、ベトナム戦争における米国を挙げています。


●戦略構造における自衛官、指揮官それぞれの責任分野


 この戦略構造において、われわれ自衛隊、自衛官が責任を持つべき分野は、といいますと、基本的には作戦以下の分野であり、われわれ自衛隊は、戦略に基づき、技術を磨き、戦術をくみ上げ、作戦を遂行する、これに主眼を置きます。

 ただし、戦略策定や戦略実行の段階においては、政治指導者にプロとしての必要な助言を行うために、高位の指揮官には、水平レベルに関する知識や、垂直レベルと水平レベルの相互作用の理解といった素養が必要と考えられます。

 昨年末に発足したNSC(National Security Council:国家安全保障会議)の中には、約13名の自衛官がおります。まさに彼らは、軍事的な専門家の立場から政策決定、政策遂行といったものを補佐する。こうした制度的な枠組みも昨年の末に発足したということであります。
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