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全てのイージス艦のミサイル迎撃能力があるわけではない

わが国の安全保障を考える~海上自衛隊の現状と今後~

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
今、「危機の安定化」という国際情勢の中、自衛隊が求められているものは、かつての冷戦期とは異なる。海上自衛隊はどんな活動を行っているのか。その現状と今後について解説し、わが国の安全保障における自衛隊の活動を総括する。
時間:08:15
収録日:2014/08/01
追加日:2015/02/18
カテゴリー:
≪全文≫

●6隻のイージス艦でグローバルな課題に対応


 従いまして、海賊の問題、北朝鮮の問題、そして、中国の問題と話してまいりましたけれども、これを私が所属していました海上自衛隊の現状に合わせて言わせていただくならば、グローバルな課題に対応するために今、2隻の船と2機のP-3を出しています。2隻の船を常時ソマリア沖に出すためには、2隻の船が向かうか、もしくは、終わって帰ってくるときに備え、さらに、次に行く2隻は、国内できっちりと訓練をしなければいけません。こういった訓練があるからこそ、これまで一度の被害も出していないと思っています。すなわち、2隻の護衛艦のために、6隻の護衛艦を使っています。そして、先ほど言った通り、今隊員を全国からかき集めてこの海域に投入しています。

 また、北朝鮮がこのあとも恫喝といったようなことをやったときには、われわれはその恫喝に屈しないだけの体制を、作戦以下で採らなければいけません。

 「イージス艦が今、6隻あるではないか」と言われますが、そのうちの2隻は、残念ながら今のところ弾道ミサイルを撃墜する能力がありません。もちろん、探知、捜索はできます。しかし、先ほど言った技術レベルで必ず撃ち落とすという体制をつくるためには、訓練がいります。

 従いまして、6隻の護衛艦、イージス艦のうち、その時々の状況によりますけれども、6隻が全部使えるということはあり得ません。すなわち、4隻の撃墜能力を持ったイージス艦を使おうと思えば、4隻のうち1隻、ないし、よくて2隻が使えるという現状であります。こういった、今、与えられている兵力の中で、われわれは懸命に運用しているのです。


●現在の危機に対応しながら、将来の危機に備えた訓練も


 私は冷戦期も経験していますが、冷戦期も長期の行動はたくさんありました。ただし、冷戦期には抑止ということを主眼に置きました。簡単に言えば、強く存在しておくことがわれわれの課題でしたので、長期の訓練というのは計画事項でありました。

 例えば、リムパック。「来年、自分の船はリムパックに参加することになった」「年間にこういう訓練があるのだ」ということです。

 でも、今はそういった訓練をやりながら、私どもは相手が主導権を持っている状況にも対応しています。

 従いまして、いつ出航をしなければいけないのか。いつ帰ってこなければいけないのか。ほとんどが実任務ですから、それに備えて、練度を一定に維持しておかなければいけない。その訓練もやらなければいけない。簡単に言えば、今ある危機に対応しながら、将来の危機に備えた訓練もやるということです。

 そういう中で、隊員はもちろんですが、それを支える家族にも、その備え、心構えが必要です。これについても、昔で言うところの「亭主元気で留守がいい」ということになります。実は、私も父が海上自衛官だったので、そういう家族だったのですけれども、「お父さんは、長い出航だけど、いつか帰ってくるわ」という考えで常にいました。


●自衛隊に要求されているのはグレーゾーンのコントロール


 でも、今われわれが置かれている状況は、そうではないのだろうと思っています。そして、さらに、われわれは、抑止でもない、安定化でもない、これまで多分自衛隊が経験したことのない「危機の安定化」というようなミッションの中で、これを絶対に有事にはさせない、つまり、グレーゾーンのコントロール、これをわれわれは要求されていると思っています。

 東京オリンピックの招致が決定した次の日の産経新聞の一面の右側に、安倍晋三総理が言われた、「2020年のオリンピック、未来に責任」が見出しとしてありました。これは、要するに、「福島第一原発は必ず大丈夫だ」という意味での「未来に責任」があるということです。その一面の片隅には、「尖閣諸島に無人機」という記事がありました。

 私は、これを隊員に示して、「よく見てごらん。実は東京オリンピックには、幻の東京オリンピックがあったよね」と言いました。1940年のことですが、このときは日本が返上をしたのですね。当時はシナ事変の拡大などいろいろな面で、とてもそういうことはできないということで、返上しました。

 従って、それを入れますと3回目になるのでしょうか。私は自分の部下には、「本当に苦しいと思うけれども、私たちは、少なくともあと7年、危機の安定化、これを達成しなければいけない。総理が未来に責任を持たれていると同じように、われわれも未来に責任を持っているのだ」ということを申し上げました。

 

●総括~現場への理解があって初めて自衛隊は活動ができる~


 そして、さらに、先ほど申し上げた通り、われわれの活動でグレーというのは、国民の皆さまにとってはピースタイム、平時であり...
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