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成長戦略は日本の硬直した社会体質の改革

「成長戦略」とは日本社会の体質改革である

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
世界的関心の的であるアベノミクスだが、この成長戦略は日本の硬直した社会体質の改革に他ならない。世界史上例のないほどのデフレ時代をへて、われわれが失ったのは果たして「20年」と言えるのか? 新たな視点で日本の将来像の見方を島田晴雄氏が解説。 (2015年1月26日開催島田塾第120回勉強会島田晴雄会長講演「年頭所感 アベノミクス 2年間の経験とこれからの日本経済」より、全10話中第8話目)
時間:09:00
収録日:2015/01/27
追加日:2015/03/03
≪全文≫

●世界中の関心の的・アベノミクス


 今、アベノミクスは、ものすごく世界中の関心を集めているのです。『フィナンシャル・タイムズ』紙は私もよく読んでいますが、ほとんど毎日のようにアベノミクスに関する大きな記事が出ます。このようなことは、40年ぶりです。終戦後高度成長の、焼野原の中から不死鳥のように立ち上がったという時、あの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・ヴォーゲル著)の頃はずいぶん話題になりましたが、それからは全然日本は話題になりませんでした。

 しかし、今はすごいですね。「三本の矢」というのも分かりやすいし、金融、財政、構造改革というホップ・ステップ・ジャンプになっています。ただ、世界史でも珍しい18年間もデフレに沈んでいた国が、経済政策で復活するのかどうかというのは、これは知的にも政策的にも大関心です。

 もし、これで日本の経済が復活したら、ものすごい前例になって、世界中がマクロ経済学を確立したケインズに目を開かされた時のような状態になると思います。そして、復活しなければ、「ほら、見たことか」ということになる。ですから、『エコノミスト』も『フィナンシャル・タイムズ』も真面目に議論しています。珍しいことですね。ただ、今までずっと私がお話ししたので、成長戦略の中身は、多分いま皆さんが日本で一番詳しくなっていると思いますけれど。


●成長戦略とは、日本経済社会の体質改革

  
 成長戦略がやっていることとは、結局、何だと思いますか。一言で言うと、これは成長戦略というよりは、日本の経済社会の体質を変える政策なのです。そして、その「体質」とは何かというと、戦後改革でつくって固定化された体質なのです。この体質に、規制改革会議の大田弘子さんなどは、もう真正面から刃で突っ込むようなことをやるわけです。素晴らしいことだと思います。しかし、「体質改革」と「成長」とはつながるのかな、という感じがしますが。

 それで、前回言いましたように、日本経済には実質2パーセントの成長率が必要であり、名目3パーセントでは足りないのです。実際に問題を吸収していくには、実質で3~4パーセント、名目で4~5パーセントはいかないと、無理なのですね。


●高度成長期と同様の方法では成長できない

 
 では、どうしたらいいのだろうということになります。一昔前でしたら、公共投資で成長できるのです。今、中国がそれをやっています。なぜ成長するのか、中国を見たら分かりますが、もう鉄道も道路もダムもない所ばかりですから、やれば全部プラスになって成長になるのです。

 日本はどうかというと、ダムも鉄道も十分にあります。整備新幹線があって、道路もみかん畑まで舗装されています。日本の舗装率は9割を超えているそうです。ですから、日本は公共投資による乗数効果はないのです。ダムも、下に砂ばかりたまってマイナスになっていますから。

 では、どうしたらいいのか。高齢化は進み、人口は減る。体力は落ちている。悪い条件ばかりです。でも、何だか残念ですよね。そこで、少し振り返ってみたいと思います。


●「三丁目の夕日時代」は量的効果で10%成長

 
 日本が高度成長したのは、「三丁目の夕日」の時代、大体1950年代後半から1970年代前半の時期です。あの時、年率平均10パーセントで成長しました。成長率とは、人口がとても重要なのです。労働力人口の増加率と、一人当たり生産性の上昇率を足したものが成長率ですが、当時の生産性上昇率は8パーセントあり、人口増加率は2パーセントあった。足して10パーセントで、「三丁目の夕日」の時代になって、東京オリンピックになったのですね。

 2パーセントの人口増加率、これは人口動態だから良いとして、では、8パーセントの生産性上昇率とは、どうしてそんなに上がったのかというと、半分は量的な効果です。


●量だけでなくイノベーション効果で成長

 
 それはなぜかといえば、日本は、曲がりなりにもその10年前、アメリカと四つに組んで戦争をしているわけです。日本は連合艦隊を持っていましたから、機動力は日本の方が上回った時期も一瞬あったくらいです。先進国だったのです。それがたたき潰されて、もうドロドロの焼野原になったわけで、悔しいではないですか。

 それから、やはり大量生産の時代になって、松下幸之助先生は「水道哲学」と言ったのですが、蛇口を開いたら家電がどんどん出てくるくらい大量につくり、量が多ければそれを今度はアジアに売るという壮大なことを考えました。トヨタもそうですし、鉄工所もばんばん建ちました。これだけやると、量の成長は4~5パーセントは行きます。

 しかし、アメリカに習ったのですが、TQC(Total Quality Control、総合的品質管理)...
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