10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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「日本は中東で愛されている」は正しく、かつ間違っている

「イスラム国」の日本人殺害事件の教訓と掃討コスト

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
日・エジプト経済合同委員会会合で
政策スピーチを行う安倍総理(平成27年1月16日)
出典:首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201501/16egypt.html)より
「日本は中東で愛されている国」、この認識は正しく、かつ間違っている、と中東・イスラム史研究の第一人者である山内昌之氏は語る。日本人人質殺害事件から得た教訓をもとに、一歴史家の目をもって語る、「中東と日本」、「日本とテロリズム」、そして「日本が成すべきこと」。(2015年2月16日開催 日本ビジネス協会インタラクティブセミナー山内昌之氏講演 “「イスラーム国」の本質と将来 第一次世界大戦勃発100年から第二次世界大戦終結70年への徒花“全6話中第2話目)
時間:20:01
収録日:2015/02/16
追加日:2015/03/02
≪全文≫

●「テロリストに憎まれる日本」の認識を持つ

 
 簡潔に今回のISによる日本人殺害事件の教訓について触れます。

 日本は中東に愛されているというのは、その通りです。これは市民レベルや中東の国レベルではそうですが、日本が好きなテロリスト、日本を支持しているテロ団体が果たして存在するのかを考えてみれば、よくお分かりでしょう。日本が愛されているのは市民社会のレベルで、テロリストはどこの国や誰に対しても憎むわけで、今回明示されたのは「中東のテロリストに憎まれる日本」という、誠に単純な当たり前なことが明らかになっただけです。この当たり前の理屈を語る勇気を持たない、そしてそれをきちんと受け止める世論がないというのが、今の日本が抱えている知識人と世論の大きな問題点だと思います。

 これからは日本が愛されているというのは市民社会においてであって、テロリストは日本を憎んでいるということに直面するべきです。つまり、建前と安心立命の境地だけではなくて、本音と警戒心の要素を私たちはきちんと持たなければいけません。これが私の言いたいことに尽きるのです。


●中東諸国との友好とテロリズムを区別する


 もちろん中東の一般市民や世論の中には日本への好感度は、基本的には変わりません。しかし、イスラムテロリズムによる日本人の殺害予告に見られる日本への敵対や日本人への脅迫の違いは区別しなければなりません。これを区別しないで、あたかも中東の空気がガラッと変わったかのように論を立てる、非常に単純なコメントやコメンテーターが、皆さんのすぐそばにもひょっとしているかもしれません。私は、皆さんの耳を俗耳と言っているのではありません。しかし、われわれに分かりやすい理屈で「中東が変わったのだ」というようなことを言って、「その責任は安倍晋三首相にある」というような理屈は成り立ちません。

 安倍さんの前にも、例えば、既に民主党政権下でヨルダンについては、アンマン空港でのセキュリティの強化、国境地域における入国管理の強化等に対して、無償支援等で日本は出しているのです。これは国際的に見ればごく当然のことです。これは、民主党政権の実に素晴らしい決断だったと私は思います。無償支援をする、という意味を分かってその選択をしたかどうかはさておくとしますが。いずれにしても、安倍政権になってからテロを誘発するような国際テロ、すなわち今回はISに対する対決を語っているというような理屈にはならないのです。


●テロリストに親日も反日もない


 テロリズムは、日本や日本人を含めて世界の誰でもターゲットにします。テロリストには親日も反日もないという、ごく単純な事実を認識する必要があります。あるのは彼らの目標とする戦略、実現する戦術にとって、拉致し誘拐する人質から、選択その1.身代金を取るのか、選択その2.その国の政策を変えさせるのか、あるいは国民を怯えさせるのか、選択その3.いずれも効果がなければもっと強烈に殺害するのか、いずれが有益なのかを判断するという、彼らなりのプラグマティズム(実際主義)、あるいはプラグマティックな論理。テロリストにあるのはこの論理だけなのです。「テロリストになっても、私は日本が好きなのです」、あるいは「日本を信頼するんですよ、私たちテロリスト組織は」ということは、果たして存在するかどうか、お考えになれば理屈はお分かりになると思います。

 テロによって脅迫されている世界の中で、日本人だけは中東に愛されている、中東で好感度が...
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