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中東諸国の国益が交錯し、より有利な影響力を諸外国は模索

「イスラム国」と中東の変動(2)「冷戦」復活という見立て

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
ヤルタ会談
中東情勢に詳しい歴史学者・山内昌之氏によれば、中東の大変動は、かつての同盟・協力関係も劇的に変化させた。今までの同盟関係の崩壊に代わり生じているのが対ISのつながりだ。しかし、これも単一に語ることができないのが中東の複雑さなのだ。この複雑性はどこから生まれるのか、また、どのような構造変化をもたらしていくのかをひも解いていく。(シリーズ講話第2話目)
時間:06:49
収録日:2015/02/25
追加日:2015/03/07
カテゴリー:
≪全文≫

●中東構造、三つの大きな変動


 前回、お話したようなことを踏まえてみますと、中東全体で大きな変動が起きているというように考えてよろしいでしょう。

 その第一は、これまで20世紀において中東における最も重要な政治的な焦点とは、アラブとイスラエルとの間の紛争、すなわちパレスチナ問題を核としたアラブ・イスラエル関係でした。しかし、パレスチナにとっては誠に残念なことに、パレスチナ自身の中においても、ファタハを中心とする自治政府と、ガザのハマスの地方権力との間の対立があるということも相まって、パレスチナ問題が国際的な関心から大きく後退するようになってきたということです。

 二つ目は、1980年のイラン・イラク戦争以降顕著になった、スンナ派対シーア派という対立関係が深まってきたということです。これは、さらにアラブの穏健派の国々対急進的な国々、あるいはシーア派のイランといった急進的なイスラム国家との対立という構造をつくり出したわけです。

 三つ目の構造は、「アラブの春」によって顕著になった、アラブ各国の中の国内対立です。

 20世紀は、パレスチナ問題こそが中東の中心で、世界の耳目を集めており、クルドの問題は影が薄かったのです。しかし、20世紀から21世紀にかけて、パレスチナ問題とクルド問題との間に、隠れた変化が生じました。それは、自分たちの国家を持たない、世界でも最大の民族集団であるクルド民族が、20世紀は無視されてきたにもかかわらず、いまやアメリカを含めてメディアや政治家、そして研究者たちの重要な関心の焦点になってきたということです。


●劇的に変化した中東の同盟・協力関係


 私が言いたいことは、つまり、一部において存在していた中東の同盟関係や協力関係が劇的に変化したということです。一番顕著なのは、トルコとイスラエルとの間にあった、特に国防軍を中心としてつくられていた同盟関係が崩壊したということです。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領という、すこぶるイスラム主義的な装いの強い政権と、外相だったアフメット・ダーヴトオール現首相に象徴されるようなイスラエルに反発するアラブへの接近外交。そうしたことにより、トルコとイスラエルの間の同盟、友好関係は崩壊したのです。

 もう一つは、エルドアン大統領とシリアのバッシャール・アル=アサド大統領との間にあった、個人的な信頼関係を含めた古い協力、同盟関係も崩壊したということです。代わりにいま登場しているのは、「イスラム国(IS)」に対する非公式的な、いわば、周りの国々の同盟やつながりというものです。


●「対IS」協力では片付かない複雑な中東情勢


 しかし、同時にこれには留保も必要でありまして、ISとの関係について言えば、大体の国々が、それを何とかしなければいけないと思うけれども、それではISと戦っているアサド政権やシーア派の勢力とはどのように付き合うかという問題であります。

 実は、この問題に関しては、なかなか解決が容易でないのです。つまり、イランは、ISに反発しているという点では、サウジアラビアや、ひいては、イスラエルなどとも同じです。しかし、アサド政権を支持し、そして、シリア国内においてアラブのスンナ派の住民たちを抑圧していたアサドの最大の後援者はイランということになりますから、ISが相手だからという理由で、イランとの間の協力をするということに関しては、やはりエジプトやヨルダン、サウジアラビア湾岸諸国には抵抗がある。ここに中東情勢の難しさがあるのです。


●イランと各国関係を見つめるイスラエル

 
 その間隙をぬって、どちらに転んだとしても、その双方から情勢を真剣に見て、かつイランがこうしたアラブの諸国によって全て迎え入れられないような選択肢の方向へ行くようにしっかりと見つめている国が一つあります。それがイスラエルです。

 イスラエルという国の存在は、この間、ISに対しても、実は声高にそれを批判するというスタンスを取りませんでした。それは、何よりも、核開発を進めており、テルアビブやエルサレムを射程に収めているイランの核保有を阻止するということがイスラエルにとっての最大の国益だからです。


●パラダイムシフトのさらなる要因-冷戦の構造

 
 最後に申し上げたいのは、確かに、植民地主義や帝国主義は過去のものであるかもしれません。しかしながら、この植民地主義や帝国主義の伝統を背負った国々、それはアメリカや、イギリス、フランスだけではなく、ある意味で社会帝国主義的な要素とも言うべき膨張主義を持っていたソ連も含めてでありますし、現在においては、中国の中東進出もそうでありましょう、こうした大国、あるいは中東に対してかつて支配権を持っていたような国々が、中東における影...
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