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各世界の対立する論理の上位概念は「たしなみ」か?

中東と国際社会の目指すべき方向

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
歴史学者・山内昌之氏による「イスラム国(IS)」の本質と将来」に関する講演終了後は、充実の質疑応答の時間を迎えた。参加者の鋭く本質を突いた質問に、山内氏からは「次回の約束」も最後には飛び出すほどだった。(2015年2月16日開催 日本ビジネス協会インタラクティブセミナー山内昌之氏講演 “「イスラーム国」の本質と将来 第一次世界大戦勃発100年から第二次世界大戦終結70年への徒花“、全6話中最終話)
時間:05:16
収録日:2015/02/16
追加日:2015/03/11
ジャンル:
≪全文≫

●中東と国際社会は、今後どの方向を目指すべきか


―― 中東のことは全く分からないのですが、まずイラン革命から始まり、イラン・イラク戦争があった。そこにアメリカが肩入れすることがサッダーム・フセインを強くし、また自由化しようということでアルカイーダが出てきた。ブッシュ政権の時は、自由や民主主義を反映させることが解決につながると思ったわけですが、先ほどの自由と秩序の話があったように、何か一つを良くしようとすると他に影響を及ぼしてしまう。さらに今後を考えても、仮に民主主義だといっても、民主主義で選ばれた人たちがどういう政権をつくるかは未知数だし、サウジアラビアのように王政の国もあります。国際社会がずっとさまざまに介入するたびに、イスラムはいろいろな問題を生んでいる。今後の見通しはどういう方向に進むべきで、そのために国際社会はどういう方向性を持って、イスラムに対して対峙していくべきなのでしょうか。

山内 国際社会の標準値からすると、実はアメリカも歴史的にみてかなり変わったところがあります。まず、アメリカはわれわれの共同の国際標準をつくってきています。しかし、アメリカの論理が世界全部を満足させているかというと、そうはなっていない。なぜならば、アメリカ自身が一つの世界だからです。これは中国にも言えることですが、自分たちが世界だと思っている国民や歴史は、他者との共存や妥協は難しい。同じことがイスラムにも言えます。

 中国やアメリカには、一つのまとまりとしての「国民」があります。多民族国家であることを前提として、もう一つの合衆国あるいは人民共和国という「国家の枠組み」があります。イスラムが厄介なのは、7世紀にはそのような一つの大きな共同体=「国家」であったこと。それにもかかわらず、1648年のウェストファリア体制以降の論理によって、国々が分裂して国民国家の単位と見なされたことです。西欧を基本としてつくられた国際法と国際政治の論理からは一番はみ出していく構図を持っているのがイスラムなので、「世界」との共存がなかなか難しいのです。


●「たしなみ」は対立する論理の上位概念になる?


山内 考えられることとしては、イスラム的な論理、中国的な論理、アメリカ的ないしアングロサクソンがつくってきた論理が共存していくような、もう一つ上位の概念をつくっていけたらいいのですが、なかなかそこまではいかないです。

 国連憲章を一つつくるにも、「“和”や“仁”のような、中国の感覚に基づく観念や言葉を入れよう」という提案がありましたが、つくられたのは結局、アングロサクソン的な世界の論理でした。中華民国が常任理事国の一つであったにもかかわらず、「中国の論理」は無視された。その後においては、イスラムがこれだけいろいろなインパクトを与え、かつ石油を通して世界の経済や金融に対して影響を与えているにもかかわらず、実は彼らの文明的な価値や基準に関して、西側はあまり実際の関心を持っていない。

 デンマークやパリで起きた事件についても、われわれ日本人なら、あのようなことはしない。言論・表現の自由だからといって、ムハンマドを無制限に豚などの動物になぞらえるようなことはしない。日本人は「たしなみ」というものを持っているからです。他者の文明や信仰を拒否するほどの自由を享受できるかどうかに関して、日本人は抑制や謙譲をはたらかせる。私の好きな和語としては、やはり「たしなみ」ですね。

 このようなたしなみを欧米や中国も持つことになれば話は別ですが、どうも持つ気配がない。だから、私は残念ながらこれは続くのだと思います。これは、先ほどのお尋ねにも関係します。

 今日はこのことに触れても良かったのですが、それには準備が必要で、60分ではそう簡単に触れられませんでした。ところが、皆さんは一番難しいところを突いてこられた。今度は時間をかけて、われわれが持つ難しい問題に向かわなければならないと思っています。
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