●この10年で大きく様変わりした日本のエグゼクティブ
―― 前回はリーダー教育のお話をうかがいましたが、グローバルな時代の到来とともに、インターネットが普及しました。これは技術というより使い方だと思いますが、デジタル化が進んだことも、それをさらに加速させています。そのようなことが組み合わさって、この10年で全く違う社会になったような感じがしますね。
小林 そうなりましたね。日本自体も、お酒の飲み方一つを取っても、ホテルで飲む人が増えてしまいました。昔は、その辺のカウンターだけのバーに行ったり、チントンシャンの流れる座敷へ行ったりという人が多かった。今やエグゼクティブでは、そういう人がだんだん減ってきていますね。
ですから、良いか悪いかは別として、文化そのものもすごく西欧的に転換している。当然ですが、まさに女性が今、大変活躍しています。女性は昔から家庭でも強かったけども、今も強い。
―― 圧倒的に強いです。
小林 圧倒的に強くなっていますからね。
かつては「日本の経営者は楽でいい」と言われましたが、今の経営者は勉強しないと1日たりとも保てないし、ついていけない。そこは極めてグローバルになっています。本当に、この10年の変化ですよね。
●グローバルで勝ち抜く人間をOJTでいかに教育するか
―― 全く違う社会になってきましたね。特に上層のハイエンドの方が。
小林 それが戦いに露骨に出てきているというか、特に要求されていますね。昔、僕の何代か前の人は毎晩酒を飲んで、4次会だ5次会だとやっていた。土日はゴルフに行って、それが商売だと思っていた社長たちがたくさんいたのです。今も若干いるかもしれませんが、そのような時代とはすごく差があって、今やそんな社長などはあり得ませんからね。
―― 忙しくなっていますよね。
小林 めちゃくちゃ忙しい。社長が一番忙しいのではないでしょうか。
―― そういう意味では、もう全く違う。
小林 違う時代、違う国になっているのではないでしょうかね。しかし、その環境で勝ち抜いていかないといけない。そのような人をオン・ザ・ジョブでどう教育できるのかが重要です。最低限、海外赴任の経験を持たせるとか、難しい事業を建て直させるとか、そのようなローテーションをもう少しメカニカルにやるようにしていかないと、なかなか育たないです。偶然に拾われ、偶然にここまで育ってきたようなことだけでは、人が足りなくなってしまいますね。
―― 今はたまたま育ってきた人が仕切っている感じですけれど。
小林 いや、全く今はそうなのです。
●オン・ザ・ジョブの幹部教育は、「選択と集中」方式で
―― 巨大な企業でそれを引っ張る官僚組織の中に育てる仕組みを持っていないと、なかなか戦えないですよね。
小林 おっしゃる通りです。やはりそこはGEなどを筆頭に、はっきりと事業に組み込んでやっています。うちも遅ればせながらいろいろ考えて、入社以来切れ目なく研修のようなことをやってきてはいるのですが、そういうものではないですからね。オン・ザ・ジョブの教育をある程度徹底するには、40代初期のあたりで、経営のトップになる人間を早めに20人か30人選んでしまい、そこに集中して濃密な教育をしたいですね。
―― ある程度選んでおいて集中的に投下するのと、ベッタリやるのとでは、教育費のかけ方も全然違いますよね。
小林 ベタでやるのとでは、大変な違いになります。だいたい、40歳になればもう見えてきますから、そこに投資して、そうでない人とは区別しなければいけません。日本の場合、そのような区別や差別、ディファレンシエートすることを徹底して嫌がるではないですか。本当にメンタルな社会主義国家ですからね。
―― メンタル面では本当にそうですね。
小林 「平等に生まれて、平等に育ち、死ぬまで平等でいたい」というような、「墓場まで割り振って死のうか」というような人が多いですからね。これはまた難しいところです。
―― しかし本来的には、グローバルでガンガン戦う人たちの雇用形態と一般社員とは別にしなければいけないですよね。育て方も違うと思います。
小林 そこの部分は違う。分けるべきです。
●役員会を「非日本人」で固めた武田薬品のチャレンジ
小林 そうすると、ある会社ではもう外国人を社長にせざるを得ないようなことになる。峻別して考えれば、「日本人では対象者が一人もいない」ということになる危険性さえあるのです。
―― 武田薬品の長谷川(閑史)さんが採られた外国人役員起用のやり方がそうですね。でも、やはりあれはよく考えてみると難しい。役員会の中に英語のスピーカーがいる場合、その英語の微妙な表現まで分かる人が長谷川さんしかいなかったら、動かなくなる可能性があり...