●企業が真の競争力をつけるために必要な、大きな枠への転換
―― 片方で古い型をつぶしながら、もう片方でイノベーションを進めていくというのは、やはり大変ですよね。
小林 時間軸が全然違うのです。つぶすのは数年でつぶせますが、イノベーションはその10倍、20~30年かかりますからね。この何とも言えない綾がどううまく紡げるかではないでしょうか。
―― それにしても非常に難しいチャレンジですよね。
小林 はい。でも、外はそれをもう要求していて、できないところは10年後にはどうなっているか分からないくらいスピードが上がっていますからね。それこそ生きていけないと思います。
―― 市町村は合併でその数も半分になっています。
小林 そうそう。それなのに、企業はほとんど減っていない。これはどういうことなのか。3600ぐらいの市町村が減って1800、たった10年やそこらでそこまで減るわけではないですか。企業は、古いとか新しいとか言っても、全然新しくなっていません。食品や化学では、何万という会社が相変わらず存在しています。「グローバルに展開して幅を広くしてやっている」というのならまだしも、バイオは、まだまだかなりドメスティックなところでやっている部分もありますからね。
―― 企業を半分に減らすということになったら、ものすごく競争力が上がりますよね。化学業界で言えば、売上1000億や2000億くらいの規模でやるのは非常に難しいですね。そういう中途半端なサイズの会社がなくなると、かなり違った展開になります。
小林 いや、十分変わり得ますね。また、アメリカやドイツの5兆円くらいの会社を二つか三つにまとめてしまうというような流れも、僕が見る限りではもう無理でしょうね。本当はそのくらい大きな嵩というか枠になると、フォーカスする部分が変わって、逆にやりやすくなる。グローバルな意味で本当に強くなり、コンペティティブになる。こういう設計は、まだ少し時間がかかりそうですね。
ですから、一番いいのは、本当にものすごいスピードと激しい競争の中で、社会的にどうなるかは別として、つぶれる会社が相当出てきて悪くなると、どこかでマージ(合併)する可能性が出てくるということです。そういう形でマージする時期が、ここ5年か10年の間に僕は必ず来ると思うのです。薬などの業界は特に早いでしょうし、化学も来ると思います。
●小さな世界での安定を望む日本の産業界
―― でも、逆にそういう時期が来たほうがいい。
小林 回りだすと思うのです。今は状況が少し良くなってしまったので、またそういう機運は全くなくなっていますが。
―― 確かに今は、また「自分たちだけでいける」というような機運になってしまっています。でも、それは惜しいチャンスを逸したかもしれませんね。
小林 本当に、もう少し悪ければ思い切って違う方向へ行くところを、今はそこそこの状態になっているというのはありますよね。でも、日本人の場合は、そういう外因がない限り、なかなか発想として変われないのです。
やはり貧しい時代の農業の伝統があるのか、5反や1町の田があれば自分の米は作れて、「俺の米はうまいぞ」と言える。村八分もやらずに、何となく皆で仲良く小さな水田で食べていくという形でずっとやってきた。「トラクターの運営をやろう」と皆で金を出し合い、ソ連の大きなコルホーズやソホーズ、あるいはイスラエルのキブツのように共同で運営していくといった、ああいう発想はないですね。
―― そうですね、イスラエルのキブツですね。
小林 皆で農業をやっているわけではないですか。日本のように自分の私有地でちょろちょろやっているところはないですよね。
一方でアメリカを見ると、本当に大きなトラクターを使って、農業の産業化をやっています。この日本という国の独特な農業も、あるいは独特な産業構造も、僕は農協とあまり変わらないと思うのです。
―― なるほど。確かにそうかもしれませんね。農協と日本の産業界は、実はあまり変わらないのかもしれない。
小林 変わらないのかもしれない。根源的なところでは、「小さい会社で俺も社長をやっていて、別にこのままでいいのだから、なぜ世界と戦うだけの大きなことをしなければいけないのか」といったことに対して、皆まだまだ同じように、「ちょっと待ってくれ。俺はこのままでも死ぬまで楽しく生きていけるのに、“一緒になろう”とか、何をまたいろいろとうるさいことを言うのか」ということなのではないでしょうか。
―― でも、確かにそういう意味で言えば、どの産業界も農業と変わらないかもしれない。
小林 非常に農業チックだと思いますよ。変なことをやらないようにする。村八分を嫌う。このパターンですよ。