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タイ、ミャンマー―中国の脇腹での民主化の動きは重要

インド太平洋の基本的構造(1)周辺国の民主化と中国の将来

白石隆
立命館大学 特別招聘教授/ジェトロ・アジア経済研究所長
情報・テキスト
米国オバマ大統領と会談するミャンマー・テインセイン大統領
これまで中国の緩衝国だった周辺国で民主化への動きが起こっている。この動きは中国の将来にどのような影響を与えるのだろうか。政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏に、習近平政権の国際感覚とともに伺った。(全3話中第1話目)
時間:09:59
収録日:2015/01/21
追加日:2015/06/01
タグ:
≪全文≫

●東南アジアの民主化への動き~ミャンマーとタイの場合~


―― 先日の島田塾での先生の講演では、クーデターを起こしたタイのプラユット・チャンオチャ首相が「民主化しても経済的に成長しないフィリピンのようになってもいいのか」と発言したことや、「北京コンセンサスvsワシントンコンセンサス」の話をされていましたけれども、このあたりは、どうなのでしょうか。ミャンマーのテイン・セイン首相も、やはり「ポピュリズムに走るよりも、とりあえずある程度は統制型で、ある一定線まで行く」と言っていますよね。

白石 ミャンマーの場合、あまりにも一挙に民主化したため、国民の期待は急速に高まりますので、生活水準が3年ほどで劇的に良くなるのではないかと私は思っています。ですから、そうならずに政治が不安定化することを考えるよりは、期待をどうマネージして、着実に成長していくのかを考えた方がいいでしょう。その意味で、テイン・セイン大統領がやっていることは大体いいのかなと思います。

 ただ、実は私は、アウンサンスーチー氏が大統領になったら逆に不安定化するのではないかと思っていて、この数年間で積み上げてきたものが崩れるかもしれない、という懸念を持っています。

 しかし、タイの場合は、民主化への期待がものすごく拡大しているのです。特に、一番貧しい地域であるタイの東北部とバンコクは、所得格差が1対9ほどあるからです。にもかかわらず、国の予算が地域的にどう配分されているのかを見ると、バンコクに73パーセントほど使われているのです。ということは、要するに、国は貧しい地域にほとんど何もやっていないことになります。この地域の人たちは、農閑期には出稼ぎで結構バンコクに来て、お手伝いさんなどで働いていますから、バンコクのエリートや中産階級がどういう生活をしているのか、よく知っているのです。ですから、やはり不平等だという感覚があるので、今のようなやり方ではおそらくもたないでしょう。ただ、民政化して選挙を行うと、またタクシン派の勢力が勝つ。このような状況が、まだしばらく続くのではと私は思っています。


●中国の周辺国で進む民主化の動き~大陸部と島嶼部の違い~


白石 ただ、私は、タイはとても大事だと思っています。実は、中国の周辺を見ますと、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーはある意味で全て非民主的な国になっているのです。そして、バングラディシュからインドの方に行くと、また民主制になります。つまり、ある意味では、中国にとって中国の脇腹に当たる地域が全て、政治的にも居心地のいい緩衝国となりつつあるのです。ここで民主化の動きが出てくるのは、長期的に見れば非常に重要なことだと思うのです。

 大国は常に自分の周りに敵がいることを嫌がりますので、その意味で緩衝国化は仕方がないことだと思います。しかし、超長期的に中国の動向を考えますと、周りが徐々に民主化していくことは、すぐには期待できないけれど、中国の将来にとっても重要なことではないかと思うのです。

 それから、なかなか面白い動きがあります。大陸部は、かなり緩衝国化し非民主化しているのですが、島嶼部は、日本からフィリピン、インドネシア、インド、オーストラリアと全て民主主義なのです。私は最近「インド太平洋」と言い始めたのですが、大きく見ると、その世界は、海をまたいでアメリカからインドまで完全に民主主義であり、法の支配により、ある意味では同じような安全保障上の利益を持った国となっているため、大陸の方が少し違ってきていると思います。


●内向きな習近平世代、国際感覚が期待される次世代


―― 鄧小平や江沢民など中国の主席は一貫して「中国の絶好期は2020年までだ」と発言しているというお話がありました。だいぶ2020年に近づいてきて、習近平が、「党よりもむしろ人民解放軍を重視し、陸よりは空と海を重視している」と発言しているというお話も出てきました。今後、中国はいろいろな意味で成長率が落ちてきますが、一方で、都市化は進んでいくでしょう。その中で、いろいろなものが表面化してくると思うのですが、しばらくは強硬路線ということですかね。

白石 私は、おそらく習近平の世代がこれまでの中国指導者の中で一番内向きで、一番ナショナリスティックではないのかなと思っています。江沢民は、英語がしゃべれたとは思えませんけれども、エイブラハム・リンカーンのゲティスバーグの演説は全てそらんじていたとよく言われていますし、鄧小平は、フランス語はできなかったそうですが、それでもフランスに行き、住んだ経験もあります。

 ところが、江沢民以降は基本的に言語が一つしかできない人たちで、...
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