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後世のために必要な史実を緻密に議論していこう

戦後70年談話(2)歴史家としての使命

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
日本はさまざまな立場から歴史を考え表明する自由を保障されている国である。しかし、中国や韓国では政府の政治的判断が歴史認識に大きく影響するという現実がある。歴史を通して人はどうあるべきか、真実とはどこにあるのかを問い続けてきた歴史学者・山内昌之氏が、戦後70年談話を前に、今ひとたび、歴史の見方、歴史家としての使命を考える。戦後70年談話を考えるシリーズ第2回。
時間:15:53
収録日:2015/05/12
追加日:2015/06/04
日本はさまざまな立場から歴史を考え表明する自由を保障されている国である。しかし、中国や韓国では政府の政治的判断が歴史認識に大きく影響するという現実がある。歴史を通して人はどうあるべきか、真実とはどこにあるのかを問い続けてきた歴史学者・山内昌之氏が、戦後70年談話を前に、今ひとたび、歴史の見方、歴史家としての使命を考える。戦後70年談話を考えるシリーズ第2回。
時間:15:53
収録日:2015/05/12
追加日:2015/06/04
≪全文≫

●国民の歴史観を支配、統制する国がある


 皆さん、こんにちは。前にも触れたかもしれませんが、私の大好きな中国唐代の歴史家、劉知幾(リュウチキ)の歴史観や歴史理論、歴史とは何かについて論じた書物に、『史通』という本があります。今日は、それについて手がかりを得ながら、いま私たちが抱えている現代の問題について、少し考えてみたいと思います。

 世界のどの国においても、どの国民においても、もちろん自由に歴史を解釈する権利があります。しかし、国民が自由に歴史を研究できる日本とは違う体制の国があることも事実です。過去においてのソ連邦という国や、現在のイラン・イスラム共和国などにおいては、公式のイデオロギーや公権力の厳しい統制によって、国民の歴史認識や歴史に関する見方を厳しく上から支配してきました。そこでは当然ながら、ウラジーミル・レーニンやルーホッラー・ホメイニーの批判はタブーでありました。


●中国、韓国共通の「自国は善・日本は悪」という姿勢


 他方、歴史というものについて、事実や史実ではなくて、強烈な思い込み、誇張やある種の誇示を含めた物語として理解する国も日本の隣国の中にはあります。中国共産党の鋭い権力闘争の一番重要な素材とは、歴史をどのように認識するかということでありますし、韓国社会においても、時にではありますが非理性的な世論が巻き起こってくる。これは何かというと、いずれも一つの共通点があります。それは、日本の近い過去を常に批判し続けることで、国内や国際舞台における勝負を有利に運ぶ根拠を得るために、政治に歴史を持ち込んでいるということです。

 韓国の歴史研究者たちは、私の経験からしても、日本の植民地支配を道義的に裁くことに大変熱心なあまり、良く申しますと使命感を持つあまり、大切な問題意識が欠如してしまうように思います。例えば、李朝の時代の支配の構造と、日本による統治の時代の構造を比較する。その中で、法の支配がいかに日本統治の時代において確立したのか、あるいは、国民のもとにおける社会的な、国民の生活を発展させ豊かにしていく社会基盤がいかに発展し整備したのか。こうしたことを、批判的にさえ議論しようという問題意識、当然批判してよろしいわけですが、同時に事実としての認識を持ちながら、その問題を議論しようという問題意識に大変乏しいことに、私は気が付きました。自らの国については、もっぱら善行や美辞を強調し、日本については、過誤や誤謬、さらに悪事ということをことさらに強調するのが、ある意味では中国と韓国に共通した姿勢ではないかと思われます。


●劉知幾の言葉を想起させる中韓の歴史認識


 こうした姿勢を見て、いま触れた善行や美辞、あるいは、過誤や悪事、これらの言葉を私が歴史について引用したのは、もともと先ほどお話した唐代の歴史理論書である『史通』、劉知幾の書物の中からであります。特にその印象深い箇所を、いくつか私は思い起こす次第です。

 劉知幾は、7世紀から8世紀にかけて生きた人ですが、彼も影響を大きく受けた儒学の最も基本になる論語について、彼は皮肉っぽいシニカルなことを言っています。子どもというのは、たとえ親が悪事を犯しても悪事を隠すこと、これが論語の教えだ。子どもがそのようにして親をかばう、親のそうした悪さを隠ぺいするのが正直さというものだと、こうしたことを教えているのが論語だと言うのです。

 また、歴史書の濫しょうと申しますか、そもそもの源流である、中国古代の『春秋』という本...
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