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なぜギリシャは危機的事態に陥ったのか?

ギリシャ危機~経済指標から見る今後の展望~

植田和男
第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授
情報・テキスト
一応の合意にたどりつつある今回のギリシャ問題だが、まだギリシャ議会を通す作業に加え、ユーロ諸国による具体的支援を詰める作業も残っているため、先行きは不透明だ。一体なぜギリシャはこのような危機的事態に陥ったのか。経済学者で東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏がこれまでのギリシャ情勢を整理し、今後の展望について語る。
時間:18:16
収録日:2015/07/15
追加日:2015/07/17
タグ:
≪全文≫

●ユーロ加盟がギリシャ問題のポイント


 それでは、今日は、先日大騒ぎした後とりあえず当面の合意にたどりついたように見えるギリシャ情勢について、おおまかな考え方を整理するため、お話ししてみたいと思います。

 ただ、とりあえずの合意にたどりついたように見えますが、これをお話ししている時点では、まだギリシャ議会を通すという作業が残っていますし、その後はユーロ圏諸国による支援をより具体的に詰めるという作業も残っていますので、当面の話としてどうなるか、まだ分からないという段階ではあります。そこで、今日はもう少し長いスパンから、こういう事態に陥った理由のいくつかについてお話ししてみたいと思います。

 全体として大きなポイントは、ギリシャがヨーロッパの通貨同盟であるユーロに加盟したことが、加盟する途中から引き続き大問題であり続けているということです。その上、ギリシャ以外の加盟国にとっても大きな問題につながる可能性を秘めているということでございます。


●通貨同盟が持つメリットとデメリット


 最初に押えておくポイントとして、通貨同盟一般が持っている利点と問題点について整理しておきたいと思います。

 通貨同盟とは、違う国同士で通貨を同じにしてしまうことですが、例えば、ヨーロッパで通貨が違っていると、国境を越えて旅行するたびにお金を換えないといけないため、ものすごくコストが掛かります。通貨が一緒であれば、そのコストは無くなるという大きなメリットがあります。

 さらに大きなメリットとしては、金融資本市場が同じ通貨で一体化することになりますのでマーケットが広くなり、多くの国、あるいは企業にとって、それ以前よりも低いコストで資金調達ができるという点が挙げられます。

 逆にデメリットとしては、通貨を一本にしてしまいますから、金融政策が当然一つになってしまうということで、加盟国一国一国の事情に合わせて金利を上下させるということができなくなってしまうという点があります。通貨同盟に入っていなければ、自分の国が不況の場合、金融緩和をすればいいのですが、通貨同盟に入ってしまうとそれができなくなるということです。


●メリットの方が大きい二つのポイント


 メリット、デメリットを考えた場合に、デメリットはあるけれども、それでも通貨同盟に入った場合、メリットの方が上回るのはどういうケースかという点も、昔から議論がされています。

 一つのポイントとして、労働者が国境を越えて移動できるという場合、メリットの方が大きいといわれています。例えば、ギリシャが不況になれば失業者は増えるわけですが、国境を越えてドイツに移動することはできます。そちらで職を得ることができれば、ギリシャの不況のコストは大したことがない、あるいは金融政策がないことのコストは大したことがないということになります。

 もう一つは、例えば、ギリシャが不況になったとき、ヨーロッパ全体で財政同盟のようなものができていまして、不況地域であるギリシャに、大きな政治的な抵抗がなく、財政的な移転支出を行うことができるという場合に、メリットが大きいといわれています。

 ただ、残念ながら、労働の移動と財政同盟どちらもユーロ加盟国の間では十分ではないために、ユーロという通貨同盟がいろいろな面できしんでいるということを、われわれは経験しているわけです。


●ユーロ加盟後、金利の大幅低下で大量借入


 より具体的にギリシャについて見てみますと、今となってはよく知られていますように、2001年に加盟したわけですが、加盟の一つの条件は財政赤字が小さいことだったため、粉飾財政をして財政赤字を小さく見せて加盟したという経緯があります。その後、そのことが発覚して、大きな問題になったわけです。

 さらに、これは、通貨同盟のメリットがデメリットになってしまった面ですが、加盟したことによって、当初は金利が大幅に低下しました。例えば、これはギリシャの10年国債の金利を示すグラフです。2000年代の初めから途中までのもので、最近になるとものすごく金利が上がっています。ギリシャは2001年にユーロに加盟しており、いろいろと理由はあるのですが、それ以前と比べても明らかに金利が下がっていることが分かります。

 金利が下がったために、ギリシャは結果的に債務を増やします。これは、2003年以降のギリシャの政府債務のGDPに対する比率です。増やしたといっても、このグラフではこの辺りのところで、低い金利で大量の借入をして、お金を使ってしまったということなのです。後でお話ししますように、さらに債務が増えたのは、危機が発生した後、ユーロ圏、あるいはIMF(国際通貨基金)から援助を受けた時、それが借入という形になったためです。ただ、こ...
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