●低炭素化の実現が視野に入ってきた
小宮山でございます。今日、私がお話しさせていただくのは、「低炭素化」です。理想的にはそうあるべきだし、技術的にも可能で、実現させる必要はあるが、現実的にはなかなか難しい。これがこれまでの低炭素化の評価でした。それがようやく経済的にも低炭素化の実現が視野に入ってきたという話をしたいと思います。
内容は三つです。一つ目に、いま私たちには「転換期」を生きているという認識があり、キーワードは「飽和」だということ。二つ目に、ビジョンとして「プラチナ社会」を提案していること。プラチナ社会の内容で今回のテーマと特に関連するのは、「省エネルギー」「都市鉱山」「再生可能エネルギー」です。最後に、これらのビジョンが経済的視野に入ってきたことを申し上げたいと思います。
ここでこのような写真を出す必要はないかもしれませんが、温暖化は大変なのです。氷河は溶け、沈み掛けている島が出てきています。なぜいま世界がこのような大転換期にあるのか、温暖化にどのような対策を打てばよいのか。その答えの一つが「飽和」にあると思います。飽和は、後で申し上げるように、経済にとってあまり良いことではありませんが、温暖化対策を考える上で重要な要素・条件となっています。
●明確な格差をもたらしたのは、産業革命だ
このグラフですが、縦軸は世界各国それぞれの1人当たりのGDPを、その時々の世界平均の1人当たりのGDPで割った値です。先進国はいずれも3から4の辺りにありますが、それは、私たちを含む先進国の人々が世界平均の3、4倍の所得を得ているという意味です。
1000年前は、どの国も同程度の所得でした。産業のほとんどが農業だったからです。多くの人が食べ物を作るために生きていました。1人当たりの食物量はそれほど変わりませんから、国ごとの貧しさの差はなかったのです。
そこに明確な格差をもたらしたのは、産業革命です。現在は、農業だけを見ても、少なくとも産業革命当時の200倍、生産性が高まっています。昔は、100人に99人が穀物を作り、ようやく全員に行き渡る穀物を生み出していたのですが、今は穀物だけなら、200人に1人が大規模農業を行えば、全員が食べていくことが可能です。これが、生産性が200倍上がったことの意味です。
このような高い生産性を真っ先に手にした国が、イギリスをはじめとするヨーロッパであり、北米やオーストラリア大陸なのです。これらが先進国となり、アフリカ大陸、南アメリカ大陸などにあった他の国々はこれらの国の植民地になりました。ですから、南アメリカではポルトガル語などを話しているのです。アジアでも、中国は必ずしも植民地になったわけではありませんが、アヘン戦争によって、実質的には植民地同様、搾取の対象となりました。
●経済格差が急激に縮まってきている
しかし、このグラフでは、この20年ほど、先進国の数値が急激に落ちてきています。もちろん、先進国が貧しくなっているのではありません。ただ、先進国の成長率が1パーセント、2パーセントで止まっており、その間に他の国々の成長率が高まってきたのです。ここでは中国とインドだけを示しましたが、この2国を含むかつての途上国で工業化が始まって、豊かになり、先進国との経済格差が急速に縮まってきています。ですから、人口が10倍多い中国が、日本のGDPを抜くのは当たり前の話なのです。
こういう意味で、産業革命で先進国と植民地という形で非常に開いた貧富の差が、今また急激に縮まっている。これは逆にいうと、有限の地球の中で、かつての途上国、植民地であったところが、工業化を達成してきているということを示しているわけです。
日本は特殊な国で、鎖国を解いた明治維新から明治・大正時代、ほとんどの国が植民地になった時に、一気に先進国になることができました。ちなみに、この二つのへこみは戦争です。こちらが日清・日露戦争で、こちらが太平洋戦争。太平洋戦争は負け、日清・日露戦争は勝ちましたが、勝っても負けても、戦争は経済を疲弊させます。やはり戦争はしない方が良いのです。この三度の戦争の時期を除けば、明治以降、一気に工業化を果たし、先進国となったというのが日本の歴史です。
●人工物の飽和は、地球環境には良い
つまり、産業革命が世界中に普及してきているのが現在の状況で、その結果、何が起こっているかというと「飽和」です。日本にはいま、5800万台の自動車がありますが、それを全人口1億2000万人で割ると、0.45になります。0.5が、2人に1人が車を持っていることを示しますから、先進国はどこもそこまで行っているということです。国の広さで多少の違いはあるものの、だいたい2人に1台のところで止ま...