●自然利子率で景気判断
最後に今日三つ目のテーマということになります。実質実効円相場が割安化したのか、していないかの判断基準ということです。
ここで私が提唱したい考え方は、数カ月前にこの10MTVでも一度お話ししていますが「均衡為替レート」、私の言葉で言いますと「自然為替レート」の概念の重要性です。
まずもって金利の世界の話を申し上げたいのですが、金利の世界においては、自然利子率という考え方があります。自然利子率というのは、その経済がそれぐらいの金利水準であれば、自然体で成長できますよという利子率であります。この自然利子率というのは、目に見えるものではないわけなのですが、概念としてはそういう考え方であるということですね。
この自然利子率を実質金利が下回ってくると、金利があるべき水準よりも低いということで、景気刺激効果が出てくると考えられていますし、逆にいうと、自然利子率を実質金利が上回ってくると、あるべき水準よりも金利が高くなったということで、景気が悪化する、デフレ圧力が加わってくる。こういったような考え方がされています。
今お話ししました通り、この自然利子率というものは目に見えないわけでして、さまざまな経済動向から逆算するしかないということです。ですから、何を申し上げたいのかというと、日本経済が回復して、インフレ圧力が強まっていくということであれば、そのこと自体が、おそらく実質金利が自然利子率を下回って低下しているのだろうという傍証になります。逆に、景気が悪くてデフレ圧力が強まるということは、おそらく実質金利が自然利子率を上回っていて、景気悪化圧力をかけているのだろうな、こういったような考え方をするということです。
●均衡(自然)為替レートという考え方
為替レートにおいても、これと同じような考え方を導入すべきではないかと私は考えていまして、この実質金利に相当するものが、先ほどご説明した実質実効為替レートということになってきます。
そこで、この自然利子率に相当するものが、私の造語なのですが、自然為替レートということになってきます。これは、一般的にも実は案外使われている考え方なのですが、均衡為替レートとも言われています。
●円相場割安化の判断材料
何を申し上げたいのかというと、日本の場合は、実質実効円相場というのがずいぶん長期的に下がってきたわけです。自然為替レート、均衡為替レート、要は、日本経済がその為替レートの下で景気を拡大させることができるのかどうか。これは目に見えないものなのですが、この自然為替レート水準というものが、実質実効円相場以上に下がっていたことによって、実質円相場がずいぶん安くなったのだけれど、日本経済にはまだ景気悪化圧力が加わっていたのではないかということです。
逆に、過去数年間の円安が進んだことによって、おそらくこの自然為替レート水準、均衡為替レート水準を実質実効円相場が下回り始めていると思われるわけです。そのことによって、経常収支の改善や、さまざまな生産活動の回復というものが、実体経済面でも起こっていますし、後は、日本株の上昇ピッチというものが、アメリカ株を上回って進むということが起こっているのではないか。こういった経済指標の回復とか、早いピッチでの株価上昇ということ自体が、おそらく実質為替レート、実質実効円相場が、自然為替レート、均衡為替レートを下回ってきている一つの証拠になっているのではないか。
要は、実質実効円相場は確かに変動相場制移行後の最安値圏に下がっていて、それだけでは円が割安化したかどうかというのは分からないわけですが、先ほどお話ししたような経常収支や株価動向の改善というものが、おそらく円相場自体が割安化してきているということを示しているのではないかと思います。
●デフレマインド払拭にはいたっていない円安
本来であれば、こういった動きになってきますと、デフレ圧力が相当弱まって、インフレ圧力が強まってくるということが起こらなければいけないわけです。いま日本経済は、次第にこのデフレ圧力は弱まって、インフレの芽も出てきていますが、今のところまだアメリカや諸外国と同じ水準までインフレ率が高まっているわけではありません。
円は確かに割安化し始めてきたと思っていますが、著しく割安というところまできているのか。要は、日本のデフレマインドを払拭するところまで円が割安化したのかという観点から見ると、まだ不十分な円の割安化ということではないかなと考えています。
今日の話はこれで終わらせていただきます。