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徳川秀忠によるライバルの排除が家光の地位を安泰にした

将軍家光のリーダーシップ(3)ライバルの排除

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
徳川秀忠
3代将軍家光によって、徳川幕府は盤石の存在となり、その後250年続く統治システムを整備する。しかし、その前に家光は彼の前に立ちはだかるライバルを排除する必要があった。ここでは家光のライバルたちの運命と、その後の改革の序章について、歴史学者・山内昌之氏からお話をうかがう。(全4話中第3話目)
時間:19:38
収録日:2015/06/30
追加日:2015/07/30
≪全文≫
●3代将軍のライバルをあらかじめ排除した秀忠

 元和9(1623)年、家光に将軍宣下がなされます。「宣下」とは、天皇から将軍職に任命するという勅が下されることです。その結果、秀忠は45歳でありながら大御所になっていきます。ところが、このようにして3代目を継いだ人間には、いろいろなかたちのライバルが周辺に立ちはだかってくるのは、皆さまもお分かりのことかと思います。

 企業経営においてもそうです。先代社長や会長が指名した人事が、同族経営の世襲企業であってもスムーズに継承されるとは限りません。そこには兄や姉がいるかもしれず、自分の権力がなかなか磐石にはなりません。さらに、おじ、あるいはいとこに当たる存在がいて、権力の継承がなかなかうまくいかないのは、今われわれも見ているところです。

 国会議員の場合でも、世襲議員と言われますが、なかなかその世襲に関して、誰が父や祖父の地盤を受け継ぐのかという問題があります。必ずしも長男とは限らない場合もある。直系の世襲ではなく、傍系に行く世襲もあるかもしれない。子どもではなくて甥や大甥にいくようなケースも、実際にあるわけです。

 こういう中で秀忠は、家光のライバルになるだろう人間をあらかじめ排除していきます。3代目が成立したときに必ずやライバルになる人間を、自分が3代目将軍だった間、あるいは大御所になってからも「禍根を断つ」という行動を起こしました。これが、家光にとっては大変幸運なことだったわけです。

 権力の継承は、ヒューマニティや人道主義でなされるのではありません。江戸の政権を掌握し、日本の征夷大将軍になるのは、結局1人だけだからです。その1人に対して、ライバル意識を持ったり、脅かしてくるような人間がいては困ります。

 その中で最大のライバルは誰だったかというと、先ほどの系図に戻ってみましょう。もう一度系図をご覧ください。


●家光の最大のライバル忠長と、その母「お江与」

 秀忠には、成長していった息子が3人います。家光、忠長、正之という男子です。この内の正之は、お静という庶腹に生まれた男子なので、今は省きます。そして、同じ腹、すなわち秀忠の正妻は「お江与」という人物です。

 先日、NHKの大河ドラマで江与を取り上げました(「江~姫たちの戦国~」2011年)。私は途中で見なくなりましたが、大河ドラマの凋落は、このあたりから起こったのではないかと思うほどです。

 歴史的事実に全く反したことを平気でやって、てんとして恥じない。それから、ともかく女性をドラマの主人公にするために、やはり相当無理をしないといけないことがあります。現代の女性ではなく、江戸時代や幕末の女性を取り上げ、現代の女性に共感させようとするのは無理があります。

 率直に言って、江与は日本の歴史に残る悪女の1人です。稀代の悪女と言ってもいい。私などは、そういう人間に、茶の間の夜8時に登場してほしくはないのです。しかも、ドラマではあたかも賢夫人であり、良き母であるかのように描かれましたが、それにはやはり相当問題があります。

 秀忠の子の家光が将軍の跡を継ぐことに対して、最後まで妨害したのが彼女です。家光は春日局という乳母によって育てられましたが、忠長の方は自分が乳を与え、ずっとそばに置いて育てたものだから、偏愛が過ぎるのです。


●お江与が「稀代の悪女」と呼ばれる理由と正之

 さらに、お静という者がはらんだ正之という人物との関係もあります。実は、秀忠は非常に現代男性の模範になるような男です。何かというと、妻以外の女性に対して関心を持たなかった。生涯、正妻である江与だけを伴侶としたことです。

 江戸時代やそれ以前においては、家系を守ることが重視されたため、多くの側室を持ち、ともかく男子を確保していくことが、当時の法制度の感覚や慣習として合理的なものだったとされます。そのために側室制度等々があったわけですが、これは現代人の法規範や感覚であれこれ言っても始まらないところがあります。

 江与は、正之になる子どもをお静がはらんだと知った時に刺客を放ち、水子にしようとします。実はそれ以前、他の女性に対してもこのような行為がありました。「水子」というのは、流産にさせることではなく、子どもをはらんだ母子ともども殺そうとすることです。こうしたことを平気でやった人間だということが、江与については分かってきているわけなのです。

 そういう人物が、われわれの平和な夜8時の一家団欒の場所に出現すると、実に私はドラマを見ていられないぐらいの状態になります。周囲にとっては私が注釈をつけるのがやかましいということになりますが、ここはヒストリアンとしてなかなか黙っていられないところです。


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