≪全文≫
こういう過去の話をするにあたり、私自身、心中は忸怩(じくじ)たる思いで一杯である。
というのも、歴史を語るのはある意味で「後出しジャンケン」のようなものだからだ。われわれはいくらでも立派なことがいえる。歴史家というのは勝手なことがいえるわけで、ある意味で気楽な稼業かもしれない。
だが、自己弁護じみた話ではあるが、もし世の中に歴史を語る講談師がいなかったら、織田信長でも豊臣秀吉でも楠木正成でも、われわれの心の中に生き生きと甦ることはなかっただろう、とも思う。
講談を読めば「なるほど、当時、人々はこういう考え方で、こういう生活をしていたのか」とわかる。だが、学者の書いた歴史書を見ても、そうは理解できるものではない。その意味で、歴史家とは別に、講談師のような存在がいることも、きわめて重要なことだろう。
私は歴史の専門家でもない。単に歴史を好んできた人間である。ただ私は、昭和5年に生まれ、昭和という時代を見聞きしてきた。だから本書で、私は自分自身を「比較的正確なことをいう講談師」だと位置づけたいと思う。
本書の冒頭にあたり、本章ではコミンテルンのことを中心としつつ、さまざまなことを一気呵成に紹介してきたが、実際に後世から見れば「何だこんなことか」ということであっても、歴史とは、本当に小さなことが大きくなっていくものである。
もう一つ、歴史を考える場合に忘れてはいけない視点は、「誰がどのようなことをしたか」であろう。歴史は人間の営為の積み重ねがつくりあげるものである。そして、歴史を読む面白さもそこにあるといって過言ではない。
昭和史の場合、多くの登場人物を見ていかないとわからない部分もあるが、であればこそ、あの時代をつくった人たちの群像劇のような「昭和史」として、本書を書き進めていきたい。その手法をとりつつ、「相手側が何をしたか」「日本側がどう動いたか」という両面から歴史を見ていきたいのである。
次章以降も、広い視野から時代状況を描きつつ、実際に同時代に私が見聞きしたことや、声に出して歌っていた歌なども紹介して、戦前の昭和という時代を動かしたものを活写したいと思う。
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情報・テキスト
軍談(講談)の寄席
もし世の中に歴史を語る講談師がいなかったら、織田信長でも豊臣秀吉でも楠木正成でも、われわれの心の中に生き生きと甦ることはなかっただろう。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第一章・第16話。
時間:01:30
収録日:2014/11/17
追加日:2015/08/13
収録日:2014/11/17
追加日:2015/08/13
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