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ユーロを大いに活用して利益を上げたのはドイツ

書物で学ぶギリシャ危機(2)ユーロが見せた影の側面

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(エマニュエル・トッド著、文芸春秋)
歴史学者・山内昌之氏が、ギリシャ財政金融危機および共通通貨ユーロの影の側面について解説する。人類学者E・トッドの指摘によればドイツはユーロをフル活用した国と言えるのだが、そこから生じた共通通貨ユーロの闇とは一体どのようなものなのか? 現代の問題を歴史的観点から捉え直す山内氏の異色経済講義第二弾。(全3話中第2話目)
時間:10:48
収録日:2015/07/16
追加日:2015/08/13
『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(エマニュエル・トッド著、文芸春秋)
歴史学者・山内昌之氏が、ギリシャ財政金融危機および共通通貨ユーロの影の側面について解説する。人類学者E・トッドの指摘によればドイツはユーロをフル活用した国と言えるのだが、そこから生じた共通通貨ユーロの闇とは一体どのようなものなのか? 現代の問題を歴史的観点から捉え直す山内氏の異色経済講義第二弾。(全3話中第2話目)
時間:10:48
収録日:2015/07/16
追加日:2015/08/13
≪全文≫

●古代ペルシャ人が示した二つの人間の過ち


 皆さん、こんにちは。今日は前回に引き続き、ギリシャを襲っている財政金融危機の問題について考えてみたいと思います。

 前回も少し紹介したローマの時代に活躍したギリシャ人、プルタルコスは、『モラリア(倫理論集)』に収められている「借金をしてはならぬことについて」という有名なエッセイにおいて、私にとっても大変興味深いことを指摘しています。

 それは、古代のペルシャ人についてです。古代のペルシャ人は、二つ、人間の過ちとして大きいものがあると言いました。その軽重の順番でいうと、第二番目、つまり軽い方の過ちは、嘘をつくことである。それでは一番目に重い過ちは何かというと、ペルシャ人たちは、借金をすることだ、と述べたというわけです。この点でいきますと、これはペルシャ人というよりも、現代のギリシャ人ではないかという気になります。やや酷な言い方でありますが、そのように置き換えてもいいのではないかと思います。

 今世紀に入ってから発覚した、EU加入条件において、国家債務のパーセンテージについて嘘をついて加入しおおせたという、このこと。つまり、国が借金をたくさん背負っているという事実を隠した。それは嘘をついたということです。つまり、古代のペルシャ人たちが言ったことを紹介している自分たちの祖先プルタルコスの『モラリア』における指摘がそのまま当てはまっているのが今のギリシャ人だといえば、あまりにも酷でしょうか。


●ユーロを発明したフランス、活用したドイツ


 しかしながら、こうしたギリシャの問題について、私たちは歴史として見ていく場合に、ギリシャだけが果たして非難され、批判されるべきなのかという、現代資本主義の大きな命題にも突き当たることにもなります。その点を多面的に理解するうえで、シリーズ第2回目の講義におきましては、私とともに皆さんにも参考になるいくつかの日本語に訳されている書物などを、少し紹介してみたいと思います。

 その一つは、最近翻訳で紹介されました、フランスの人類学者、社会学者であるエマニュエル・トッドの、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』という書物であります。文春新書から出ているこの本は、そもそもこのユーロという共通通貨が、ドイツの利益に奉仕する貨幣に成り下がったという厳しい主張から成り立っています。そして、フランスのフランソワ・オランド大統領は、ドイツのヨーロッパ覇権を追認するアンゲラ・メルケル首相の第一副首相、あるいはメルケルの広報局長にまで落ちぶれたと酷評しているわけです。

 これは、トッド流の厳しい言い方ではありますが、私が何を申したいかというと、最近、独仏で協調してやってきたユーロ、あるいはEUの政策協調などにおいて、フランスの影がかすんできて、ドイツがもっぱら前面に出てきたということにお気付きの方も多いかと思います。つまり、ユーロをつくったのはフランスでしたが、ユーロをフルに活用して利益を上げているのはドイツだという現象が見えてきたのです。


●共通通貨ユーロで顕在化した貿易不均衡


 フランスはもとよりイタリアやスペイン、南欧諸国は、共通通貨ユーロのせいで、平価の切り下げを、現在構造的に妨げられています。ユーロ圏では、ドイツからの輸出だけが一方的に伸びる空間になったというのが、トッドの主張です。

 簡単に申しますと、共通通貨ユーロは、その中に非常に競争力の弱いギリシャやスペイン、ポルトガル、ひいては...
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