●「ヒートアイランド」に打つ手はないのか?
環境やエネルギーの技術は、難しいものだと感じられます。たしかに、技術の詳細はエンジニアが精魂込めて作るわけですから難しい面もありますが、極めて身近な問題でもあります。例えば、「ヒートアイランド」についての問題を取り上げてみましょうか。
私は今61歳、まもなく62歳になるところですが、東京育ちです。50年前の東京を振り返ると、30度を超える日は滅多にありませんでした。真夏の8月、いよいよ暑くなってきたときに32~3度に上がることはあったように思いますが、30度を超えると「暑い日」と言われていました。
現在では、何度になったら暑い日ですかね。おそらく33~4度は普通、36~7度になると「明日は暑いぞ」。そのぐらいまで変わってきているのではないかと、私は感じています。東京という都会での気温は、少なくとも5~6度は上がっているのではないか。これは、生活する感覚からいくと極めて由々しき事態なのですが、誰もが仕方のない問題だと、あきらめているのではないでしょうか。
私はそうではないと思う。中国あたりでは、「ヒートアイランド」という現象はおそらくこれからクローズアップされる大問題として、日本を観察しているわけです。天津や北京に出かけていくと、「東京は暑いそうだね。実は、中国でもそろそろ始まっているんだ」というような話をされます。彼らは先例として日本を一生懸命見ています。
●部屋が涼しくなった時点ですぐ冷房のスイッチを切る
では、われわれはヒートアイランドに対して何ができるのか。いろいろなことが考えられますが、その中から二つだけ申し上げることにしましょう。
一つは、自分の家でのエネルギーの消費を少なくすること。冷房に使うエネルギーを少なくすることです。
今、冷房は、家の中を涼しくするために、電気を使って熱をどんどん外に吐き出しています。でも、どうして熱を吐き出さなくてはいけないのでしょう。家に帰ってすぐにクーラーのスイッチを入れれば、室内がどんなに暑くても、5分ぐらいで涼しくなってきます。あそこで電気を切ってしまえればいい。
でも、実際にはすぐにまた暑くなってしまいます。つまり、それは冷たくした家の中に、暑い外からの熱がどんどん漏れ込んでくるからです。だから、その熱をまた外へ汲み出さないといけない。
●家を「魔法瓶」にするために窓は二重ガラスを標準装備に
それならば、家を「魔法瓶」にすればいいわけです。魔法瓶のように外からの熱を入ってこなくすれば、いったん冷たくした後はクーラーを切ってもかまわない。もちろん自分自身が発する熱もありますが、これは人1人100ワット程度に過ぎませんから、大した影響はないです。
いったん冷たくしたらクーラーの切れる「魔法瓶」的な状況へ、どれぐらい近付けられるか。これは、家をどうやって断熱するかという問題になります。
一番重要なのは、窓を二重ガラスにすることです。最近では、少し高価なマンションであれば標準装備になってきていますが、これを全員が使うべきです。そのようにすると、おそらくクーラーにかかる電気使用料が半分で済むようになります。そのほか、いろいろなところの断熱をよくしていく。その前段階として、すきま風などがありますが、断熱をよくしていく工夫で、冷房の電力は3分の1ぐらいに減るはずなのです。
●エアコン効率の改善で冷房エネルギーはどこまで下がる?
もう一つはエアコンの効率です。同じ冷房能力のエアコンであっても、8年前と今とでは、電気の使用料がほぼ倍ぐらい違います。さらに、今後も倍ぐらいまでは改善されていくはずです。
家の断熱が3倍向上して、エアコン効率が4倍になると、数年前と現在あるいは今後を比べたときに、冷房のエネルギーは12分の1になります。新たな発電所を作るよりも、こちらのほうが冷房の需要も上がる。人間や社会にとって、はるかにいいことです。これをよく知ることですね。
寒いよりも暑いのを我慢するのがなかなかつらい。クールビズもいいことですし、やらないよりやったほうがずっといいのですが、効果が大きいのは、今言った断熱とエアコンの効率という技術による改善です。こちらのほうが量的にも効果が大きいのは間違いありません。このことが一つ、重要です。
●自然の構造を無視した都市開発から東京を救う「海水道」
さらに言うと、都市の構造です。
海辺をどんどん埋め立ててビルを作ったために、これまで海から入ってきていた冷たい風が東京に入りにくい構造になりました。これはとても大きな、難しい問題です。本来ならばビルを建てる場合には、風道という海から通る風の道を確保する設計がなされるべきです。日本では残念ながら、そういう都市計画がまったくなされていない。
これは大きな問題...
(http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/panf02.pdf)より抜粋