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若き田辺朔郎の琵琶湖疏水の偉業を支えたのも「愛国心」

第六章 人種差別を打破せんと日本人は奮い立った(7)西洋人たちに見下されてたまるか

渡部昇一
上智大学名誉教授
情報・テキスト
田辺朔郎
Wikimedia Commons
土木工学者・田辺朔郎は工部大学校(東大工学部の前身)時代、卒業論文で書いた琵琶湖疎水の工事計画が高く評価され、それをもとに琵琶湖から京都まで疎水が引かれたという。当時の学生には、「西洋人たちに見下されてたまるか」という愛国心の強烈さがあり、それが難事業を成功させる力になっていた。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第六章・第7回。
時間:05:38
収録日:2015/02/02
追加日:2015/09/14
≪全文≫
 東大の建築学科の先生に、あるところで講演をしていただく機会があった。その先生の話によると、工部大学校(東大工学部の前身)造家学科の第五期生である土木工学者・田辺朔郎が卒業論文で書いた琵琶湖疎水の工事計画が当時の京都府知事に高く評価され、彼の卒業論文をもとにして琵琶湖から京都まで疎水が引かれたという。

 「現代の大学生にこんなことができますか」と尋ねると、いまの学生たちは卒業論文でもこんなことは考えていないということだった。しかも当時は、いまのように重機もないから手掘りである。それでも工部大学校を卒業したばかりでまだ二十三歳だった田辺朔郎は、京都府御用係として、前代未聞の大土木事業をやり遂げた。

 その先生に「なぜ当時の学生にそんなことができたのか」と聞くと、非常に感心したことに、「あの頃の学生の愛国心でした」との答えであった。「西洋人たちに見下されてたまるか」とか「彼らにできることができないで、たまるか」という愛国心の強烈さが、難事業を成功させる力になっていたということだった。人間には、ヘッドもハートも重要だが、やはりガッツがとびきり重要であることを、つくづく思い知らされる話であった。

 戦後の日本は、「頭のいい子供」を育てようとして、受験戦争に勝つような教育ばかりを一所懸命に行なった感じがある。それから「優しい子供」を育てるために、幼稚園などの運動会では、一等賞もビリもないように「みんなで手をつないでゴールに入りましょう」という教育まで行なわれた。いま問題になっている生活保護と同様に、どんなに怠惰で働く気のない人でも生活は保障してあげましょうという、ある種の思想に似てはいないか。

 日本の戦後教育では知識や優しさは重視されても、ガッツを教えられることはなかったと思う。だが、かつての日本では、頭の良さや心の優しさ、人柄の良さは美徳ではあっても、ガッツがなければ武士としては失格だった。いつでも腹が切れる覚悟がある人でなければいけなかった。

 いずれにしても、子供たちに勉強ばかりさせるのは怖いものだ。その点、韓国を見てみると、あんなに受験勉強ばかりの国では駄目だと思う。

 エドモンド・デュモランという人が書いた『Anglo-Saxon Superiority: to what it is due』という、1897年にフランスで出版された本がある。『なぜイギリスは優れているか』。それはイギリスのパブリックスクールでは勉強よりもスポーツを重んじるからであるというようなことがうまく書いてあって、フランスの秀才は官僚か軍人だけに適すると述べられている。

 これは当時よく読まれた本で、出版後二カ月で五刷の版を重ね、日本でも戦前、どこの校長室にも一部はあったといわれている。私は英訳書を持っているが、この本を誰かうまく訳してくれないものかと思っている。

 『Anglo-Saxon Superiority』という意味では、現在のイギリスのスペリオリティ(優位性)はかつてほどのものではないかもしれないが、他国との比較でいえば、案外うまい教育を維持しているように見える。
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