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「judgments=裁判」は外務省の誤訳

第七章 歴史を愛する日本人の崇高な使命(13)「サンフランシスコ平和条約第十一条」問題

渡部昇一
上智大学名誉教授
情報・テキスト
サンフランシスコ平和条約第十一条に書かれている「戦争裁判の受諾」の英語原文は、“accepts the judgments”である。この“judgments”という言葉を、外務省が「裁判」と誤訳した。厳密にいえば「判決」でもなく、「諸判決」とすべきである。日本は、「東京裁判の内容には問題があるが、サンフランシスコ平和条約でその『ジャッジメンツ』を受け入れているのは事実だ」と表明すべきなのだ。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第七章・第13回。 ※本項には該当映像がありません。
時間:00:09
収録日:2015/02/02
追加日:2015/09/24
≪全文≫
 外交評論家の岡崎久彦氏は「会社が潰れたときの係長クラスの人物が、いまの政府を運営している」とおっしゃっていた。となると、あの頃に潰れた会社の代表取締役社長なら経営がよくわかる。その代表取締役社長クラスが、東京裁判で戦犯に指定された世代であった。重光外相をはじめとする代表取締役社長クラスがのちに復帰したから、日本は再び立ち直ることができたのである。

 彼らは、「自分たちはけっして悪いことをしていない、朝鮮半島は日本の援助で生活が豊かになったのだから、むしろ感謝されて然るべきだ」と毅然とした態度を示していた。彼らにはいまの日本人に見られるような劣等感などはなく、文字通り一歩も引かなかった。

 だがその後、「会社が潰れたときの係長クラスの人物」が日本を運営するようになると、大いにブレて右往左往するようになる。それを象徴するのが、「サンフランシスコ平和条約」第十一条の解釈であろう。なんと、「日本は東京裁判を受諾した」と言い募るようになったのである。

 そもそも、被告全員の無罪を主張したインドのラダビノッド・パル判事が書いた「パル判決書」を読めば、日本人が東京裁判を受諾する必要がないことは明らかである。パル判事は東京裁判で「平和に対する罪」や「人道に対する罪」といった、これまで国際法になかった新たな法理を適用するのは事後法であり、法の不遡及の原則に反していると、実に明晰な判断を下している。

 だが敗戦国としては、戦勝国が下した判決には従わなければならなかった。すでに死刑にされた人間を生き返らせるわけにもいかない。

 その意味で、東京裁判という「裁判」を受諾するのか「判決」を受諾するのかは、絶対に混同してはならないことなのである。

 サンフランシスコ平和条約第十一条に書かれている「戦争裁判の受諾」という部分の英語原文は、“accepts the judgments”である。この“judgments”という言葉を外務省が「裁判」と訳したのは、悪訳もしくは誤訳だ。複数形になっているので、厳密にいえば「判決」でもなく、「諸判決」とすべきである。

 絞首刑(東條英機ほか6名)、終身禁錮(賀屋興宣ほか15名)、禁錮七年(重光葵)などが、この諸判決に当たる。独立を回復した頃の日本政府や国会は、この条文を正しく解釈していた。

 安倍晋三首相は、その点を理解しているので、「裁判」でも「判決」でもなく英語で「ジャッジメンツ」といっている。それも一つの手であり、安倍首相になってから、だいぶ答弁がよくなった。

 麻生太郎副総理は外務大臣時代に、「日本は東京裁判を受諾して国際社会に復帰した」といっているが、それは大きな間違いである。日本が国際社会に復帰したのはサンフランシスコ平和条約の調印後であり、東京裁判ではないのだ。おそらく外務省がそう答弁するようにレクチャーしていたのだろう。

 「東京裁判を受諾する」といってしまったら、日本が東京裁判が正当だと認めたことになる。日本は、「東京裁判の内容には問題があるが、サンフランシスコ平和条約でその『ジャッジメンツ』を受け入れているのは事実だ」と表明すべきなのだ。

 その根拠を確認するには、サンフランシスコ平和条約第十一条の原文を見て、「ジャッジメンツ」の解釈の出た文章にどんな動詞が使われているかを見ればいい。

 「日本国は東京裁判(極東国際軍事裁判所)ならびに日本国内外の連合国による戦争犯罪法廷のジャッジメンツ(諸判決)をアクセプト(...
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