テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.01.09

なぜ街の自転車屋は潰れないのか?

 一般財団法人自転車産業振興協会の「自転車国内販売動向調査 年間総括(2017年)」(以下「年間総括」)によると、2017年の国内新車自転車販売台数・約767万台のうち、量販店・ホームセンターなどの大規模店が91.9%(約705万台)を占め、かつて販売の主流であった小・中規模の小売店、いわゆる「街の自転車屋」は8.1%(約62万台)までにシェアを落としている推計しています。

 けれども、街にはつぶれることなく経営を続けている自転車屋があります。では自転車屋はいったいなにで儲けを出しているのでしょうか。

 今回は、自転車屋の“つぶれないカラクリ”を探ってみたいと思います。

昨今の自転車業界のトレンド

 「年間総括」では、2017年の1店舗当たりの平均年間総販売台数も発表されており、総数274.1台となっています。この結果は、2016年の総数293.2台と比較すると、前年比-6.5%の減少となっています。そして、店舗規模別では「大規模店」が641.2台、「中規模店」176.4台、「小規模店」57.4台となっており、販売台数自体が減少しているうえに、店舗規模によって販売台数に大きな違いがあり、特に「大規模店」と「小規模店」の約11倍規模のひらきがあることがわかります。

 また、中小企業診断士の野﨑芳信氏は、2017年に発表した論文「自転車販売店のモデル利益計画」で、日本の自転車販売業の事業所数・従事者数は、ともに1985(昭和60)年から3分の1以下に減少していると述べています。

 具体的なデータ「平成28年経済センサス‐活動調査」(総務省・経済産業省)をみてみると、日本の自転車販売業の事業所数・従事者数は、2016(平成28)年時点で事業所数11,207・従業者数27,204となっています。

自転車屋の“稼ぎ頭”

 しかし、街には少なくなったとはいうものの、今でも中小規模の自転車屋は存在し、営業を続けています。営業を続けられるということは“何らかの儲け”を計上しているはずですが、それが“自転車を売ること”を主体していないことはみえてきました。ではいったいなにを、“稼ぎ頭”としているのでしょうか。

 会計の視点から中小企業のビジネスモデルを取り上げた.『潰れないのはさおだけ屋だけじゃなかった』では、「街の自転車屋」の月間会計例を、以下のように挙げています。

 1)新品自動車販売月6台:(販売価格2万円-仕入れ値1万2000円)×6=粗利4万8000円、2)ライト・鍵・ヘルメットなどの部品販売:約5万円-仕入れ値2万円=粗利3万円、3)パンク修理月150件:(修理代1000円-修理材のコスト10円)×150=粗利14万8500円、4)その他チューブ交換などの修理の利益:約20万円-材料代2万円=粗利18万円、5)登録料・保険料など手数料:4万円-原価3万2000円=粗利8000円【合計粗利額:41万4500円】

 このように項目立てて自転車屋の粗利をみていくと、利益の8割を占める利益率の高い“稼ぎ頭”が、3)と4)の「修理代」ということがわかります。同書では自転車屋を「修理技術を売るビジネスと言える」と解説しています。

 さらに自転車屋の“修理ビジネス”の旨みであり、最大の“つぶれないカラクリ”は、3)の「パンク修理」にあるといいます。日常使いをすることが多い自転車というツールにおいて「パンク修理は自分で直すことが困難で、なおかつ急を要する」ため、「パンクした人のほとんどがすぐに近所の自転車屋に駆け込む」ことになります。つまり、パンク時の利用者の心理は「いますぐに直るのであれば、値段は二の次でいい」となっており、原価率1%の利益率の高いビジネスが成立するのです。

“つぶれないカラクリ”はビジネス成立の秘訣

 また“修理ビジネス”以外にも、年度ごとの新入生によるまとまった取引を行う特約店になるなど、地縁を生かした需要がある場合も多かったり、家族経営や自宅に店舗を併設することによって、人件費や家賃を抑えていたりするなど、店ごとにスモールビジネスの利点を生かした“つぶれないカラクリ”を、カスタマイズして経営に取り入れている場合が多々あります。

 同書では「専門技術が必要で、緊急性を要するサービスが提供できれば、そのビジネスは成立する」とし、古くからある例として開業医や各種の修理業を、さらには水回り・鍵・パソコン等の緊急トラブル対応からロードサービスなどを挙げつつ、新たなビジネスが起こってきていることも示唆しています。

 どんな業種や業務規模であっても、“つぶれないカラクリ”があればビジネスは成立するともいえます。気になるお店があれば“つぶれないカラクリ”を一考し、仕事や生活に取り入れてみてはいかでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・「自転車販売店のモデル利益計画」、『税理』(2017年10月号、野﨑芳信著、ぎょうせい)
・『潰れないのはさおだけ屋だけじゃなかった』(リテール経済研究会・三銃士編著、宝島社新書)
・「自転車国内販売動向調査 年間総括【平成29年(2017年)】」
http://www.jbpi.or.jp/statistics_pdf/2017.pdf
・「平成28年経済センサス‐活動調査 産業別集計(卸売業,小売業に関する集計)」
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/hyo.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
2

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
3

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授
5

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(1)細胞と細胞内の入れ替え

2016年ノーベル医学・生理学賞の受賞テーマである「オートファジー」とは何か。私たちの体は無数の細胞でできているが、それが日々、どのようなプロセスで新鮮な状態を保っているかを知る機会は少ない。今シリーズでは、細胞が...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/03/17
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授